給料も上がることはまれで、なにかと厳しいこのごろ。財テク知識は必須か?しかし、これがなかなかリスクも大きい話で……しかも、財テクしていたのが会社のトップとなると……。
あーっ!!!頭痛いー!だれか助けてー!!
どうしたんですか、つき先輩ったら、大きな声出して。いつものことだけど。今日は、なにがあったんですか?
あんた、いつもひとこと多いのよ。私は本気で困っているのにさ。聞いてよ、私の部署がコンプライアンス推進室だからって、親戚の叔父に頼られちゃって。それが大きい話でね。叔父は会社の取締役やっているんだけど、そこの社長が財テクで失敗したらしい。で、自分にも責任があるのか?って、聞いてきたの。わからないよー!教えて!
えっ、それは大変。ゆき先輩に聞いてみましょうよ。ゆきせんぱーい!
はいはい。お金には縁の遠い私に財テクの話とはね。
ゆき先輩、貯める気がないですもんねー。
そうねー(ぐさっ!)さて、その叔父様の件だけれど。どういうことなの?
はい、社長が投機的な財テクに失敗して会社に多額の損害を負わせたらしく、財テクのことは叔父は知らなかったみたいですが、株主から会社に対する損害賠償責任があると言われているらしく、それで私に相談があって。
そう。結論から言うと、その社長の財テクが取締役としての注意義務に違反したものである場合、叔父様が取締役として十分な注意を尽くしても社長の独断による投機的財テクに気がつかなかった、と認められない限り、原則として、監視義務違反として社長と連帯して会社に対し損害賠償責任を負うのよ。
げっ!!ほんとですか!?叔父さんかわいそう。
取締役というのは、会社に対して善管注意義務を負っているのよ。取締役がこの善管注意義務に違反したら、債務不履行ということで会社に生じた損害を賠償する責任を負うの。
厳しいのねー。
そうよ。損害賠償責任というのはかなり厳格なものよ。原則として総株主の同意がなければ免除はされないし、時効期間は10年。だから在任中に損害賠償責任の原因となる行為をした場合、取締役退任後も責任を負うことになるの。
ええっ!もうすぐ引退して悠々自適のはずが。そんなー。
もちろん、事業経営にはさまざまなリスクが伴うのがあたりまえだから、事業の失敗についてすべて取締役が責任を負うということではなくて、その失敗に至る経緯で取締役として注意を尽くさなければならない事について検討したか、その場合の判断が合理的だったか、という点で判断されるの。
ということは、この場合、財テクが取締役会の決議に基づいて行われていたら、決議に参加した取締役も連帯して責任を負う、ってことですね?
そう。財テクにあたって、相当な注意をしなかったのが社長だけであれば責任の主体は社長ということになるんだけど。取締役会の決議であれば、連帯責任ね。そして繰り返し言うけれど、大切なことは、事業の成功か失敗か、ではなく、そこに至る過程でどうであったか、ということね。
でも、叔父はヒラの取締役ですよ。それでも?
そうよ。たとえヒラであっても、業務執行を行う代表取締役の行為に対する監視義務を負うものとされているので、これを怠った結果、会社に損害が発生していたら、ヒラ取締役も損害賠償責任を負うの。だって、ヒラであっても必要であれば取締役会招集権限があるのだから、これを行使して代表取締役の違法不当な職務執行を停止させる義務があるのよ。
んー。わかりました。つらいけど、叔父にはそのように話します。よっしゃ、私が励ましてあげよう!!
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