サービス残業は会社への忠誠心のあかし――そんな時代は終わりました!
と言いたいところですが、実態はそうでなかったりします。よくよく聞いてみると、残業を申告しづらい雰囲気がある、申告の合計時間に制限がついている、または残業代ゼロの企業もまだまだあるとか。今日も深夜までこうこうと明かりのついているA社販売促進部をのぞいてみましょう。
もう23時か…。そろそろ終電なくなるぞ。
はい、明日の打ち合わせ資料が出来上がったら帰りますので。
あんまり無理しないようにな。ところで、たなやん、残業代ってちゃんとつけてる?
うーん、正直つけづらい雰囲気なので、申告したりしなかったりですね。
俺も。課長は「ちゃんと申告しろよ」と口では言うけど、予算がないことはみんなもわかってるからな。
そうですよね。とりあえず今日の分は20時までにしておきますか。
ちょっと待ったー!!
びっくりしたー!ゆき先輩、まだいらっしゃったんですか?!
あなたたち、残業時間は正確に申告しなきゃだめじゃないの。残業、つまり時間外労働の対価を支払うのは、労働基準法で決められている、会社(使用者)としての義務なの。申請しづらいからウソの時間を報告するのは問題よ。
問題なんですか?友達の会社なんかもっとひどいもので、いまだに残業代が出ないところもありますし、20時間までしか申告できない、など制限がつけられているところもありますよ。うちなんてまだ出るだけマシな方ですよ。
重症ね…。労働基準法からきちんとおさらいしておきましょう。みち、説明してもらえる?
はい!
(こんな時間にどこから出てきたんだ?)
労働者の労働時間は、1週間で40時間、1日8時間を超えてはならないと決められています。これを法定労働時間といいます。また、1週間に1回(4週間に4回)の休日をとらなくてはなりません。これを、法定休日といいます。法定労働時間を超える場合(=時間外労働)や、法定休日に労働をさせる場合(=休日労働)、労働組合もしくは労働者の過半数を代表とする者と、協定(書面)を結ぶ必要があります。
そう、労働基準法第36条に規定されていることから36(サブロク)協定と呼ばれているのは有名ね。時間外労働では、通常賃金の25%以上の割増賃金、休日労働は35%以上の割増賃金を払わなければならないの。
でも、協定で決まっていても、結局労働時間をごまかしているようでは、実態に即した金額は支払われないわけですよね。
そう。そこで、平成13年の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」という通達で、始業時間、終業時間は使用者が確認、記録し、社員が適正な自己申告を行うように説明、指導することを示したのね。
具体的にはどうしたらいいんですか?
使用者が、労働時間を現認する場合を除き、タイムカード、ICカード等の客観的な記録を残すことが基本ね。また、自己申告制を導入せざるを得ない場合は、労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなど十分な説明を行い、自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施することが重要なの。もちろん、残業代の上限設定や定額払いなど、適正な自己申告を阻害する要因となっていないか確認し、必要に応じて改善をしなくてはならないわ。
平成15年にも「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」が出ましたよね。
そのとおり。「労働時間の適正な把握」だけでなく、職場風土の改革、適正な労働時間の管理を行うためのシステムの整備、責任体制の明確化とチェック体制の整備などが使用者に求められるようになったのよ。サービス残業を許した現場責任者も、それを行った労働者も、人事評価しないなど、適正な労働時間の管理を意識した人事労務管理を徹底することも重要である、と示されているわ。
そういえば、よく新聞に「残業代不払いで労働基準監督署から是正勧告」なんて載ってますよね。勧告を受けて、過去にさかのぼって支払うことになり、莫大な額になったとか。
労働基準監督署が、立ち入り調査を行う権限を持っているの。臨検と呼ばれているんだけれど、事前予告される場合もあれば、抜き打ち調査も行われているわ。
企業としては、いつ抜き打ち調査が入っても問題がないようにしておきたいですよね。
そうね。といっても、基本的に残業は「緊急時にのみ行う」ということが原則。早く切りあげて帰りなさいね。
はーい!
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