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2008/08/12号

~インサイダー取引と第二次情報受領者の関係~の巻

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会社が保有する株式をインサイダー取引で売買した場合には、会社と実行者の双方が処罰の対象になります(両罰規定)。「会社関係者」だけではなく、会社関係者から重要情報を聞いた「第一次情報受領者」もインサイダー取引の規制を受けます。では、その第一次情報受領者から重要情報を聞いた「第二次情報受領者」も、規制の対象になるでしょうか。第二次情報受領者は無限に広がりうること、また、その情報は必ずしも正確とはいえないこと、といった背景を踏まえて法律は制定されています。

あ、あの~、みち先輩…

どうしたの?歯切れがわるいじゃない。なにか困ったことでもあるの?

実は、大きな声では言えないんですが、筋野さんがインサイダー取引をしているみたいで…

え!!本当なの??

部長に報告したほうがいいですかね。

ちょっと待って。えり先輩、先輩も一緒に聞いてください。

実は、数日前にこんなことがあったんですよ。

―― 数日前の会話 ――――――――――――――――――――――――

たなやん、情報っていうのは大事だな。

何ですか、急に。

いや、有益な情報はどこに転がっているか分からないって話だよ。

何かいい情報でもゲットしたんですか?

俺にもやっと運が向いてきたというか、何と言うか。まあ、いいじゃないか。

何ですか、筋野さんから言い出しておきながら。

実は、M製薬が合併するんだって。

何を考えているんですか?

分からないだろうな。お前には。

分かりませんよ。N製薬なら知っているけど、M製薬なんて知りませんからね。

有名なんだよ、実は。

もしかして、それって。株の話ですか。

そうそう。儲かる話。すごく儲かるの。

筋野さん、それって、インサイダーの匂いがしますよ

いや、それは大丈夫。俺って、第二次情報受領者だから、大丈夫なの。

その話を聞いたのは、誰からなんですか。

それは秘密。情報源は明かさないの。

――――――――――――――――――――――――――――――――

ねっ。怪しいでしょう、筋野さん。

それを部長に報告しようとしているの? 事実かどうかも分からないのに。

そのへんのところを、迷っているんじゃないですか。

もう少し調べてからにしたほうがいいんじゃない。

あたしが調べてきてあげる。ちょっと待ってて。
―― えり先輩が筋野さんと話を始めた模様 ――

よーく、言っておいたから、もう大丈夫。筋野さん、株は買ってないし、いってみれば夢を見ていただけみたい。タクシーの運転手さんから「さっきのお客さんがN製薬の役員で、今度合併するんだって言ってましたよ」って聞いたらしいの。でも、そんないい加減な情報で夢が見られるってうらやましいわね。それに、金融商品取引法で第一次情報受領者までがインサイダー取引が禁止されている主旨が分かってないようだったので、説明しておいたわ。

ぼくにも説明してくださいよ。

インサイダー取引とは、「会社関係者」が、会社がまだ公開していない重要事実を「職務に関して」知った上で、株式など有価証券の売買を行うことよね。その「会社関係者」には、役員、従業員はもちろん、契約社員、派遣社員、アルバイト、1年以内に退職した人も含まれるの。ここまではいい?

はーい。その会社と契約を締結している提携相手や顧問弁護士、公認会計士それに取引銀行などの関係者も含まれるんでしたよね。

「会社関係者」から直接重要事実を知らされた者、つまり第一次情報受領者も、会社関係者と同様に、インサイダー取引の規制を受けることになっているの。でも、第一次情報受領者から重要事実を聞いた「第二次情報受領者」の場合、「第一次情報受領者が所属する法人の役員等であって、その役員等の職務に関して知った場合を除いて」規制の対象にはならないとされているの。

ちょっと整理すると、N製薬の役員が「会社関係者」で、タクシーの運転手さんが「第一次情報受領者」そして、筋野さんが「第二次情報受領者」ですね。

そうなるわね。そもそも第二次情報には不正確なものも多いでしょう。第二次情報受領者は、インサイダー情報を他人を介して知った人なので、正確な情報をキャッチしたのか曖昧な噂を信じたにすぎないのかの区別がつきにくいことから、処罰はしないとされているの。それに、合併するN製薬をM製薬と間違えて覚えていたようなのね。新聞くらい読んでいたら分かるのに。

インサイダー取引って、やっぱりグレーですね。

もしも、えり先輩が話をしなかったら、勘違いのままM製薬の株を買っていたかもしれないですしね。

情報は正確であるからこそ、意味があるのにね。まったく。

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