部下を育てるのは上司の務め。ときに厳しく接するのはちゃんと育ってほしいから、ですよね?でも、そんな「愛のムチ」も一歩間違えると大変なことに・・・。今回はパワーハラスメントについて考えます。
足尾さん、すっごく日に焼けてますね。夏休みにどこか行ったんですか?
高校時代の同級生と海に行ったよ。でも、その中のひとりが元気なくてさ。ちょっと気になってるんだよなー。
何かあったんですか。
なんか、会社で上司とそりが合わないみたいでさ。「辞めたい」なんて言ってるんだ。ちょっとしたミスで「お前なんか顔も見たくない、辞めちまえ」とか「生きる価値なし」とか言われるらしいんだよ。しかも、そんな状態が1年くらい続いてるみたいでさ。
こわーい。私なら辞めちゃうな。
ちょっと足尾さん。それって、パワハラじゃない?
パワハラって、パワーハラスメントのことですか?熱心に指導しているだけだと思いますけど・・・。
たとえ指導の一環でも、度を過ぎていたり、人格攻撃にわたるような指導は、パワハラにあたる可能性があるのよ。法律で定義が決められているわけではないけれど、近年はパワハラによるメンタル疾患が増えていたり、昨年にはパワハラを認定する判決が出たりして、注目を集めているわ。
へぇ。裁判でも認められているんですか。
上司が特定の部下に熱心な指導をして、その際に人格攻撃と取られる発言をしていたところ、その部下がうつ病を発症して、ついには自殺してしまったそうよ。この裁判のケースでは、上司は「お前は会社を食い物にしている。給料泥棒」とか「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している」なんて言っていたみたいね。
ひょえー。
この裁判は労災認定に関してパワハラが問題になった例だけど、パワハラ行為自体が不法行為として民法709条の損害賠償の原因になることもあるのよ。
損害賠償?
パワハラは上司が上位の立場を背景として行うものだから、部下にとっては抵抗するのが難しいし、部下に与える心理的なプレッシャーが大きくなる危険性があるから、度を過ぎた人格攻撃は、部下の人格権を侵害するもとして、その上司には不法行為が成立するのよ。
会社は責任を取らなくてもいいんですか?
上司に不法行為が成立した場合、会社は、不法行為上の使用者責任を負うことになるわね。それから、雇用主には雇用契約上働きやすい環境を整備する義務があるから、パワハラに気づいていながら放置していた場合には、この義務にも違反することになるわ。
賠償してもらっても心の傷が癒えるわけじゃないし、やっぱりパワハラ自体をなくすのが一番ですよね。それに自分が直接被害に遭わなくても、そういう上司がいたら職場の雰囲気が悪くなりますよね。
いいこと言うわ。最近じゃパワハラは、単に当事者個々のトラブルとか一個人の教育、指導のやり方といった問題ではなく、職場全体にダメージを与える大問題で組織的対応が求められることが認識されつつあるの。
会社全体が「パワハラはだめ!」という雰囲気を作っていくことが大切ですね。
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