新入社員を対象としたコンプライアンス研修が行われました。研修後、新入社員から「結局、コンプライアンスは、何のために、誰のために行うものなのですか?」と質問を受けた足尾さんは、答に窮してしまったようです。
そういえば、よく分かんないよな。俺って、分かってないかも…。みんなは知ってるのかな?
何をもぞもぞ言っているの?
さっき新入社員に質問されたんですよ。「今、コンプライアンス研修を受けてきたんですが、あの雰囲気の中では聞けなくて…」って、同じ大学出身だから聞きやすかったんでしょうね。ここは先輩としていいとこ見せようと思って「何を聞きたかったんだい」って、先輩風を吹かせたのが落とし穴とは、そのときは知る由もありませんでした。
先輩としては、当たり前じゃない。入社したての新入社員にとっては、まだまだ分からないことばかりだものね。
彼女はこんな質問をしてきたんですよ。「コンプライアンスは法令順守と訳されているけど、法律を守っていればいいというものではなくて、社会規範やルールを守ることでもあるというはよく分かったんです。でも、それって当たり前のことですよね。いったいコンプライアンスは、何のために、誰のために行うものなのですか?」
足尾さん、教えてあげなかったの?
そうしたかったんですが…、正確にいうと、教えてあげられなかったんです。
それなら、まず“compliance”の語源にさかのぼってみたら?
さかのぼってみると、どこに行くんですか?
“compliance”には、「要求・命令などに従う」という意味があって、“comply”という動詞から派生した言葉なの。その“comply”は、「守る、応える」などという意味の動詞で、「満たす、充足する」と訳されるラテン語の“complere”を語源としているの。つまり、コンプライアンスには「人々の期待・要望に応える」という意味も含まれているの。企業にとって期待に応える相手とは、誰かしら?
それは、お客様や消費者、株主、行政機関、それにわれわれ従業員などの利害関係者ですよね、きっと。
利害関係者のことを「ステークホルダー」というわね。つまり、コンプライアンスとは、企業を取り巻くステークホルダーのニーズに誠実に応えていくことだといえるわね。
わかった! コンプライアンスはステークホルダーのためにあるんですね。大麦さん、ありがとう!
ちょっと待って。そんなにすぐにイコールで結び付けないでくれる? まだ話は始まったばかりなんだから。
えっ!まだつづきがあるんですか??
もう。えりさん、助けてください。
足尾くん、人の話は最後まで聞きなさい。それでは、そのつづきは私から。例えば、コンプライアンス違反をした企業のことを考えてみましょう。足尾くん、その場合どうなると思う?
食品偽装事件などでは、まずマスメディアや消費者・市民社会から厳しい批判が集まりました。
そうね。その人たちのことは何というの?
ステークホルダーです。
コンプライアンスに反する行為は、ステークホルダーのニーズに反する行為ということなのね。それでは足尾くん、コンプライアンス違反をした企業の最悪の事態はなんだと思う?
食品偽装事件では、社長が詐欺罪で逮捕され、会社は倒産し、従業員は職を失った事件もありました。それに、損害賠償請求がされてたかもしれないな。
そうよね。コンプライアンス違反は関与者個人だけではなく、企業の存続を脅かす結果となる場合があるのね。こう考えると、コンプライアンスは、個人と企業の双方を守るためにあるといってもいいと思うわ。
そうなんですね。コンプライアンスは、自分のためでもあるんですね。
では逆に、コンプライアンスを重視した経営をしていると、どうなると思う?
それも、僕が答えるんですか? 今度は、大麦さんに選手交代。
足尾さん、もしかして分からないの? まあ、いいや。コンプライアンスを重視した経営をしていると、社会的な評価を高め、企業価値の向上につながると考えられているの。従業員は誇りをもって仕事をし、取引を希望する相手も増え、企業に好感をもった消費者が商品を購入してくれ、優秀な人材も確保しやすくなり、行政等の協力も得やすくなるという好循環を生むことが期待できるといわれているわ。コンプライアンスが浸透した会社で、もしも危機が発生したとしても、危機発生後の対応が迅速・真摯的で、対応策についても誠実であれば、企業が被るダメージを最小に食い止めることができるはずですね。
そうね。企業にコンプライアンスが求められるようになった背後には、リスク統制を充実することによって、健全で効率的な企業経営を実現して企業価値を高めるという考え方が国際的に広がったことも忘れてはいけないわね。
ありがとうございます。これから説明してきま~す。あ、いた、いた。あのね。さっきの件だけどね、ちゃんと説明してあげるね。コンプライアンスをさかのぼれば、コンプラに行き着くんだ……。
あれ、あれれ??
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