自分の会社じゃなくても、友人や知り合いが勤めている会社のことは、なにかと話題にのぼる機会も多くて、ちょっと身近に感じたりするもの。だからこそ、気をつけないといけないことも、いろいろあるんですよ。
いたいた、探しましたよ、大麦さん!
ちょっとぉ、朝からお酒くさいわよ。近寄らないでちょーだいっ。
ちぇっ、朝から優しくないなあ、もう。そんなことより、特ダネですよ!!
足尾くんが特ダネ???
昨晩、学生時代の友人と飲んだんですけどね。そいつは今、A産業の経営企画部にいるんですけど、なんと、今度A産業が、海外のなんとかって会社と業務提携するらしいんです。今週中には報道発表もされるらしくて、そしたら大騒ぎになるぞって彼が言うんです!
ふうん。海外のなんとかって会社じゃよくわからないけど…。
だから大麦さん、今のうちに、僕とふたりでA産業の株を買いましょう! これは僕と大麦さんのふたりだけのヒ・ミ・ツですよ~。
あやしいわね~、いろんな意味で、あやしいにおいがするわ。
あっ、えり先輩!!
えり先輩にも見つかっちゃったかぁ。見つかっちゃったならしょうがない。えり先輩も、ナカマに入れて、あげますよ~。
わたしは、遠慮しておくわ。それに、足尾くんのお友達、もし今の話が本当だったら、会社の大切な内部情報を、居酒屋さんで友達にべらべらしゃべるなんて、とっても常識はずれよ。もしそんなことで会社の重要な情報を漏えいしたりしたら、重大な過失ということで、彼が懲戒処分、なんてことにもなりかねないわ。
そんなそんな、大げさな。彼もきっとちょっとストレスがたまっていただけですよ。僕とやつは、友達っていうか親友だから、なんでもしゃべれる仲なんです♪
甘いっ。甘すぎるわ。それにね、その業務提携の話が本当で、足尾くんがA産業の株式を購入したりしたら、足尾くんだって、インサイダー取引になっちゃうかもしれないわよ。
インサイダー取引?
会社と関係のある人が、その立場上知りえた会社の重要な内部情報等をもとに、その情報が公表される前に、その会社の株式等を売買したりすることよ。そんな取引がまかりとおったら、証券市場の信頼性がめちゃめちゃになっちゃうから、インサイダー取引はとっても厳しく禁止されているの。
でも、僕はA産業の従業員じゃないし、会社と関係のある人じゃないですよ。
会社の役員や従業員といった、会社内部の関係者だけでなく、会社関係者から重要情報を受領した人が、その重要情報が公表される前に、その会社の株式等の売買を行うことも、インサイダー取引なの。
この場合、その情報が重要情報に該当するなら、足尾くんは、会社関係者から重要情報を受領した人、つまり第一次情報受領者となるのよ。
そのとおり。それに、「会社関係者」の範囲はとっても広くて、その会社ではたらくアルバイト従業員や派遣社員も含まれるの。また、退職した従業員も退職後1年以内であれば「会社関係者」と同様に扱われることになる注意が必要ね。それだけインサイダー取引は広く禁止されているってことは、つまり、市場の健全性を守り、投資家の信頼を確保するってことがそれだけ大切だってことよ。
ねえねえ、足尾くんがいってたA産業の業務提携って、今朝の朝刊にのってるこのニュースのこと?
そうです、これですこれです、『A産業、新事業開発ヘ向けて業界世界第三位の○×社と業務提携!』。ねっ、ビックニュースでしょ?
そのニュースなら、昨日の夜のテレビ番組でもトップニュースだったし、今朝の新聞各紙が取り上げてるわよ。A産業のホームページでも、ばっちりプレスリリースされてるわね。足尾くん、よかったじゃない。これならインサイダー取引の心配なんかせずに、株が買えるわよ。
ちょっとぉ、足尾くん。新聞くらいちゃんと読みなさいよね~。
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