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2011/10/25号

~会社に求められる安全配慮義務の対象は?~の巻

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お昼休みに新聞を手にふさぎこんでいる足尾さん。心配した大麦さんが声をかけました。

足尾さん、浮かない顔してどうしたの?

いや、「うつ病から自殺」っていう記事を読んでいたら、暗い気持ちになってしまって…。

その事件、本当にお気の毒よね。残業がここ何カ月も100時間を超えていたっていうじゃない?

そんなに残業が続いたらきついですよね。でも、派遣社員として勤めていたらしいから、派遣先の会社には責任がないってことになるんだろうな。

本当に、派遣先の会社には責任がないのかしら?

会社の安全配慮義務はどこまで及ぶものなのか、ふたりとも確認が必要なようね。

あっ、えり先輩!

結論からいうと、直接、指揮監督をする立場にある派遣社員に対して、派遣先の会社にも安全配慮義務があると考えられているのよ。

えっと…安全配慮義務って、だれの、どんな義務でしたっけ?

まず、基本から確認しましょう。労働契約法に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という定めがあるのは知ってる?

はい。それが、安全配慮義務ですよね。でも、安全配慮義務が労働契約に伴って発生するものであるならば、企業にとって安全配慮義務が及ぶ対象は、自社が直接、労働契約を結んでいる社員だけということになりませんか?

最近は、安全配慮義務は広く認められる傾向にあって、労働契約を結んでいる社員以外も含まれる可能性があるのよ。

へえ~。

一般的には、派遣社員は派遣先の職場で、派遣先企業の指揮命令のもとに仕事をするから、派遣先の企業も職場における労働者の安全衛生を確保する責任、つまり安全配慮義務を負っていると考えられているの。

でも、派遣社員が、労働契約関係にあるのは派遣元の企業ですよね。

そのとおり。だから、派遣労働者が業務上や通勤途上の災害で病気やケガを負った場合、派遣元の労災保険が適用され保険給付が行われることになるわ。

ちょっと複雑ですね。

労働者派遣法では、派遣先の会社にも、過重労働や健康障害を防止するための安全配慮義務が求められていると理解しておいてね。

それじゃあ、労働契約も指揮監督の関係もない「請負」の場合は、会社には安全配慮義務は及ばないんですか?

いい質問ね。請負の場合、請負元の従業員とその発注企業との間には、労働契約も労働者派遣法のような特例も適用されないわ。

ということは、やっぱり、安全配慮義務は及ばないんだな。

そうとは言い切れないわ。名目が請負であっても、請負元の従業員が就業している場所、たとえば発注企業の下で請負元の従業員が労務を提供している実態があれば、発注企業には、請負元の従業員に対する安全配慮義務、もしくは、それに準じた義務が認められる可能性があるの。

派遣社員の場合と似ていますね。

会社は、直接の雇用関係にない人に対しても、就業環境や健康状態に配慮する必要があるんですね。

そういうことね。それに、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした労働安全衛生法という法律もあるのよ。

快適な職場環境・・・。

労働安全衛生法では、単に労働災害の防止のための最低基準を守ればいいというわけではなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないと定めているの。

快適な職場環境を実現して、労働者、つまり、ぼくたちの安全と健康を確保するってことか。法律もけっこういいこと言っているんですね。

積極的に法令以上の措置をとることが求められているということね。

なるほど! 僕もみんなに、特別な配慮をしてもらお~っと!

◆会社には、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする「安全配慮義務」がある
◆会社の安全配慮義務は、労働契約を結んだ社員にのみ及ぶのではなく、指揮命令関係にある派遣社員にも及ぶと考えられる
◆名目が請負であっても、たとえば発注企業の下で請負元の従業員が労務を提供している実態があれば、発注企業には、請負元の従業員に対する安全配慮義務、もしくは、それに準じた義務が認められる可能性がある

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