足尾さんが、なにやらぶつぶつ言いながらファイルをあさっています。通りかかったよっしーが声をかけました。
足尾さん、何してるんですか?
今度、新しい業者と取引をはじめるから、契約を結ばないといけないんだ。それで、元になる契約書のひな形を探しているんだよ。
それなら、あそこのキャビネットにあるはずですよ。
ありがとう! そもそも「この仕事をいくらでお願いします」、「はい、わかりました」って、約束したんだから、わざわざ契約書を結ぶこともないと思うんだけどな~。
え? そういうわけにはいかないと思いますけど…。
よっしーの言うとおりよ!
わっ! えり先輩!!
足尾さん、そもそも契約書はなんのためにあるのか、わかってる?
なぜって…???
たとえば、スーパーでの買い物も契約だけど、その場限りで決済が終わるような簡単なものであれば、契約書は不要なのよ。
契約書が要らない? いいですね~!
店員が「売ります」、買主が「買います」と答えた時点で契約は成立するの。
ちょっと待ってください。それだと、ただ「約束」しているだけになっちゃうんじゃないんですか?
契約と約束は似ているけど、違うものなの。「契約」とは2人以上の人によって交わされる約束のうち、法律的な「権利義務」を伴うものをいうわ。
権利義務?
たとえば、店員の「売ります」に対して、買主が「買います」と答えた場合、その時点で売買契約が成立しているわ。つまり、お店の側には商品を引き渡す「義務」が、買主には代金を支払う「義務」が生じるの。
えり先輩、「権利義務」ってことは、権利も伴うってことですよね?
そのとおり。逆から見ると、お店の側には代金の支払を受ける「権利」が、買主には商品の引渡しを受ける「権利」が生じているということになるわ。
確かに、「義務」と「権利」が伴った「約束」になっていますね。これを「契約」というんですね。
「約束」の場合は、「権利」も「義務」も伴わないんですか?
そういうことね。たとえば、デートの約束をしたけど、一方がその時間に現れなかった。この場合は、どうなると思う?
行かないのはよくないです!
でも、「行かなければいけない」とまでは言えないと思います。
ん?そうか。約束は守らなければいけないけれど、義務ではないんだ。
契約違反とは違って、約束違反の場合、裁判を提起することはしないわよね。
しませんね。
ということは、契約を破ると裁判を提起されるってことですか?
そのとおり。契約違反の場合は、裁判によって、合法的に権利を実現することや、それによって生じた損害を賠償させることができるの。つまり、法律的な権利義務が伴うということよ。
もしも、新しい業者が仕事をちゃんとやってくれなかった場合、裁判を提起することで、「ちゃんとやってください」とか、「損害を賠償してください」ということができるんですね。
そういうことね。ただし、契約は「口約束」でも成立することも忘れないでね。
でも、口約束だけでは、「言った」「言わない」のトラブルになりがちですよね?
だから、複雑な契約の場合は、当事者双方の役割分担等を明らかにするために、「契約書」という形で書面を残しておくことが重要なの。
契約書を結ぶ上で、最初に気をつけなければならないことはなんですか?
契約書の要素となる事項が、5W1Hに沿って具体的に表現されていることね。担当者が変わることも考えて、誰が読んでも理解できるものにしなければならないわ。
5W1H…?
英語のWHO(だれが)、WHAT(何を)、WHEN(いつ)、WHERE(どこで)、WHY(なぜ)、HOW(どのように)の頭文字を取ったものよ。
思い出しました!
特に「WHAT(何を)」やサービスの仕様が要件定義などできちんと特定されていることが重要ね。それに、「もしも」の場合を想定することも必要よ。
わかりました!
【契約書作成のポイント】
・契約とは2人以上の人によって交わされる約束のうち、法律的な権利義務を伴うもの
・契約書は当事者双方の役割分担等を明らかにするためにある
・契約書の要素は5W1Hで具体的に記載する
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