足尾さんが、何やらむずかしい顔をしながら、話し始めました。
大麦さん、僕の後輩なんですけど…。
あら、どうしたんですか?
別の会社で働いている男性なんですけど、女性の上司に、毎日、何度も「男のくせに!」などといった言葉を浴びせられているらしくて。ツライってぼやいているんです。
それはお気の毒ですね。セクハラの可能性があるかもしれませんね。
え? セクハラ? でも、セクハラって男性から女性へのものですよね?
セクハラは男女ともに、加害者にも被害者にもなる可能性があるのよ。
あっ! えり先輩!
以前は、男女雇用機会均等法という法律で、社員の募集・採用・配置・昇進などについて、女性差別だけを禁止していたの。そこに、女性に対するセクハラについては規定されていたわ。
今は違うんですか?
男女雇用機会均等法が改正されて、男女双方に対する性差別を禁止する法律に変わっているのよ。「男のくせに!」という言葉を浴びせることは、女性にだけ雑用をさせることと同様で、性別に関する固定観念や差別意識に基づく性差別や嫌がらせにあたる可能性があるわね。これは、ジェンダー・ハラスメントといって、広い意味でセクハラに含まれると考えられているのよ。
そうなんですね。
ところで、足尾さんの後輩の会社では、就業規則などで、職場におけるセクハラの防止や違反者へ対処するための方針・規則を定めて、社員に周知・啓発しているのかしら?
誰にも相談できないって言っていたから、そういうことはしていないのかも…。
改正男女雇用機会均等法では、会社は、被害を受けた社員からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備したり、セクハラを防止するための啓発活動をするなどの措置を講じなければならないとしているのよ。もちろん、男性に対するセクハラも含まれるわ。
わかりました! 早速、彼に教えてあげようっと!
男性へのセクハラは、まだ裁判例が蓄積されていないこともあって、難しい面もあるけど、会社として、男性に対するセクハラの防止措置をしていない場合、使用者責任を問われる可能性があるのよ。
女性も言動には気をつけないといけないですね。うっかり言ってしまいかねない言葉ってありますし。
たとえば「そんな女々しいことでどうするの!?」「女の腐ったような」などといった表現は、言った側の女性としては相手側の男性社員の奮起を期待しての言葉かもしれないけど、相手の感じ方しだいではハラスメントになる可能性があるわ。
それに、たとえば女性社員が男性の新入社員などに対して、答えたくないにもかかわらず、「彼女はいるの?」などと執拗に問い詰めたり、からかったりするのもよくないですよね。
そうね。男性が、女性が、ではなくて、他人との関わりにおいて常に相手を思いやり、相手の立場に立って、常識ある行動をとる、という姿勢が大切よね。
僕、後輩に代わって、声を大にして言います!「女性の皆さ~ん、あなたの言動もセクハラの可能性があるんですよ~! 気をつけてくださ~い!」
足尾さん、最近では、加害者も被害者も男性というケースもあるから、呼びかけるのは女性だけでいいのかしら?
それでは、改めて、大きな声で。「皆さ~ん、セクハラは絶対にだめですよ~!」
◆ セクハラは、加害者が男性で被害者が女性という場合だけではない。加害者が女性で被害者が男性、男性から男性へのセクハラもある
◆ セクハラについての防止措置をしていない場合、会社は使用者責任を問われるおそれがある
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