筋野さんと足尾さんが、オリンピックの話題で盛り上がっています。
さてさて、どんなことを話しているのやら。
今年の話題といえば、2020年のオリンピック、パラリンピック東京開催が決まったことだよな。
せっかくだから、選手の皆さんを、思いっきり応援したいですよね!
おれの地元で、この間のロンドンオリンピックに出場した選手がいたんだけど、町役場に、「がんばれ△▽さん」って、大きな垂れ幕が出たりして盛り上がったんだ。
町をあげての応援ですね。
うちの会社も、日本の選手を応援したらいいよな。
いいですね!「がんばれ!ニッポン!○×株式会社」って、大きな垂れ幕をビルに堂々と掲げて。
いいねえ!
ちょっと、待ったー!!
え? いいアイディアだと思うんですけど、ダメなんですか?
二人とも、知的財産という権利を知らないの?
もちろん、知ってます。
日本国内では、日本オリンピック委員会が、オリンピックに関する知的財産を管理していて、「がんばれ!ニッポン!」というスローガンは商標登録されているし、日本オリンピック委員会が管理する選手の肖像を使用するときは、日本オリンピック委員会の許諾が必要なのよ。
え? じゃあ、自由に使えないってことですか?
そうよ。商標登録した者に認められる商標権は、登録された指定商品・サービスについて、商標権者のみに「商標の使用」を認めて、その他の者には商標の使用を禁止する権利だから、指定された商品・サービスについては、同じものを使うことはできないのよ。
そんなあ。
たとえば、「菓子やパン」の分野で商標登録されているネーミングは、同じ菓子やパンの分野では使えないっていうことよ。
じゃあ、それ以外の分野なら、そのネーミングを使えるってことですか?
そのとおりよ。ただし、この「がんばれ!ニッポン!」は、すべての指定商品・サービスについて登録されているのよ。
完全無比のガードだな。
それから、商標法の禁止の対象は、「業としての使用」、つまり商用目的の使用に限定されているの。市町村が、その町出身の選手を応援する垂れ幕を掲げても、商用目的ではないからOKなのよ。
なるほど。「がんばれ!ニッポン!○×株式会社」という使い方をすると、「業として」に触れてしまうということですね!
そうよ。ところで、二人は、アンブッシュマーケティング(ambush marketing)という言葉を聞いたことはない?
いえ、初耳です。
オリンピックやサッカーのワールドカップなどのイベントで、公式スポンサー契約を結んでいないものが無断でロゴなどを使用したり、会場内やその周辺で便乗して行う宣伝活動のことよ。
もしかして、えり先輩は、我々の会話にそのアン、ブッシュ、マーケティングの匂いを嗅ぎつけたということですか?
ええ。別の言葉を使えば、「便乗広告」ね。
「便乗広告」か、嫌な感じですね。
便乗広告が横行すると、スポンサー企業からの協賛金などの減収につながり、大会の運営などに支障をきたしてしまうかもしれないのよ。それに、知的財産に関する、商標法や不正競争防止法などの法律に抵触した場合は、違反行為の差し止めや損害賠償を求められる可能性があるのよ。
なるほど。
応援する気持ちは大切にしたいけど、安易な知的財産の使用は気を付けないとね。
はいっ! わかりました!
◆商標権とは、登録された指定商品・サービスについて、商標権者のみに「商標の使用」を認めて、その他の第三者には商標の使用を禁止する権利である
◆アンブッシュマーケティングとは、オリンピックやサッカーのワールドカップなどのイベントで、公式スポンサー契約を結んでいないものが無断でロゴなどを使用したり、会場内やその周辺で便乗して行う宣伝活動のことである
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