休憩から戻ってきた足尾さんが、声を潜めて大麦さんに話しかけています。
4月から総務部で働いている伊藤さん、障害者雇用枠で入社したそうですよ。
そうなんですか? ちらっとお見かけしただけですが、障害があるようには見えなかったですよ。
それが、精神障害らしいんです。
平成30年4月から、障害者法定雇用率の算定基礎に精神障害者が追加されたことに、当社も対応したのね。
あっ、えりさん!
えりさん、「障害者法定雇用率」って、なんですか?
説明するわね。障害者雇用促進法では、民間企業には、法定雇用率以上の障害者を雇用することが課せられているの。その法定雇用率が、平成30年4月に2.0%から2.2%に引き上げられ、その結果、これまでは従業員50人以上の企業に雇用義務が生じていたものが、45.5人(短時間労働者を0.5人と換算)以上の企業にも生じることになったのよ。法定雇用率は今後3年以内に、さらに2.3%に引き上げられる予定よ。
そうなんですね。その対象に、精神障害者も加わったんですね。
そうなのよ。伊藤さんは、その枠で入社されたのかもしれないわね。
うちの会社、今まで身体障害の人はいたけど、精神障害の人は初めてですよね。なんだか、「精神障害者」と聞いた途端、話しかけるのに妙に緊張してしまって…。
あら、足尾さんでも緊張することがあるのね(笑)。ただ、足尾さんみたいに、周囲の人がどう接したらよいかわからず遠巻きにしてしまうと、本人が疎外感を感じてしまって、離職につながるということも多いと聞くわ。
えー!それは困ります。
だからこそ、精神障害の人を受け入れる職場では、同僚になる人たちの教育も含め、いろいろな側面からの準備が必要なの。まず、障害の特性に合わせた配慮を、会社として提供することは必須ね。
いわゆる「合理的配慮」ですね。でも、障害の特性って、それぞれ違いますよね。
そうね。たとえ同じ病名でも、音や光に過敏な人もいれば、人の視線が苦手な人や、集中力が持続しない人もいるし、配慮が必要な要素は人によって違うわ。だからこそ、その人が職場でどのような配慮を必要としているのか、ということを、採用時に人事がきちんと確認して、配属先に伝えているはずよ。
じゃあ、まず伊藤さんと接するにあたって配慮すべきポイントは、同じ総務部の人に聞けばいいんですね!
あの~、精神障害の人はほかの障害者と比べて定着率が低い、って聞いたことがあるんですけど。
残念ながら、現状はそのとおりよ。だからこそ、職場では、就業の状況を把握するために、定期的に面談を行うことが不可欠なの。あとは、社内での相談窓口を設けたり、社外の就労支援機関などと連携してサポートしたりすることも、就業の安定化に効果があると言われているわ。
ずいぶん手厚いなあ…。受け入れる職場の人たちに負荷が生じそうで、なんだか心配です。
もちろん、会社として、精神障害者と共に働く従業員のケアも重要な責務よ。精神障害者の人を受け入れたことで職場が疲弊してしまうなんてことは、あってはならないわ。「お客様」ではなく、職場で、ともに成長していく仲間として受け入れるという姿勢でいいと思うわ。
せっかく縁あって同じ会社に入ったんだし、伊藤さん、総務部で長く働いてもらえるといいですね。まずは「話しかけ方」について、総務部の後輩に聞いてみます!
【障害者の受け入れにあたって企業が行うべきこと】
◆障害の特性や支援方法について、職場内の労働者に十分な研修を行い、適切な配慮についての知識を共有する
◆問題が起きた場合に相談できる社内相談窓口の設置、社外の就労支援機関との連携など、組織的なサポート体制を設ける
◆職場内で丁寧・適切な支援を行い、適切なコミュニケーションを取る
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