「日本版司法取引」について、ニュースなどで耳にするようになってきました。果たして誰がどんなことをする制度なのでしょうか。
業界最大手のE社の、不正会計のニュース、聞きましたか?
本当なら、大事件だよね。
これ、まだオフレコらしいんですけど、経理文書の偽造にかかわっていたE社幹部が、「社長の不正の証拠を用意できる」と言って検察官に捜査協力を申し出たらしいんです。
いわゆる「日本版司法取引」を利用したのね。
あ、えりさん!
「日本版司法取引」は通称で、法律では「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意」と言うのよ。
それって、自ら罪を申告したら、罪を軽くしてもらえるってことですか?
ちょっと違うわね。捜査機関に対して、第三者の刑事事件の捜査に協力することの見返りに、被疑者や被告人について不起訴、あるいは軽い求刑にするなどの合意をするという制度よ。得られる情報や証拠の重要性、犯罪への関連性、犯罪の重大性等を考慮して、その人の協力が組織的な犯罪の解明につながる、と検察官が判断すれば、この制度が適用されるの。
協力って、何をすればいいんですか?
第三者がその犯罪に関与していたことを供述したり、それを裏付ける証拠を示したり、法廷で証言したりするなどね。ちなみに、この「合意」には、被疑者や被告人の弁護人の同意が必要なの。
たしか、すべての犯罪に適用されるわけではないんでしたよね。
贈収賄、横領、独占禁止法や会社法違反などの財政経済関係犯罪など、刑事訴訟法に示された特定の犯罪のみが対象となるわ。
なんだか、企業絡みの犯罪が多い印象ですね。
そうね。たとえば、同業の数社でカルテルを行っていた場合、共犯者である他社の先手を打って捜査に協力して、自社の刑事責任の減免について検察の合意を取り付けてしまえば、他社が訴追される一方で、自社は訴追を免れる、ということもあり得るわ。
なるほど。日本全国の業界団体にも影響がありそうですね。
ちなみに、会社ぐるみの犯罪に関わっている人だと、自分の捜査協力により、自社内のより地位が高い人の犯罪を明らかにできる場合、この取引制度が適用される可能性が高いわ。
今回のE社の場合は、社長の不正の証拠を握っている幹部の人が捜査協力を申し出ているから、制度を利用できそうだ、というわけですね。
ってことは、僕がえりさんの不正の証拠を持って、検察に駆け込めば取引が成立する可能性が高いけれど、えりさんが僕の不正の証拠と引き換えに、検察と取引することはできないってことですね!
そのたとえはどうかと思うけれど…、まあそのとおりよ。
えりさんは足尾さんと違って、不正なんてしませんよ!
そんな!僕だって!(今のところ…。)
【日本版司法取引とは】
◆「他人」(第三者)の刑事事件に関して被疑者・被告人が、捜査に協力することと引き換えに、検察官が、被疑者・被告人の事件について、処分の減免などに合意する制度
◆被疑者・被告人の弁護人の同意があることが条件となる
◆刑事訴訟法に示された「特定犯罪」にのみ適用される(競売等妨害、⽂書偽造等、贈収賄、詐欺・恐喝・横領、組織犯罪処罰法に定める組織的な犯罪のうち特定犯罪類型のもの、マネーロンダリング、財政経済関係犯罪、薬物銃器犯罪、特定犯罪に係る証拠隠滅等)
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