企業規模を問わず影響を及ぼす「移転価格税制」。ある日突然申告漏れを指摘される前に、どんな制度なのか、理解しておいた方がよいかもしれません。
Y社のニュース、見ましたか?
ああ、中国子会社での収益を対象に移転価格税制が適用されて、巨額の追徴課税があったあれですね。
有名企業って、税務当局の狙い撃ちにされますよね。その点、うちは安心だな。
そうとも限らないわよ。
え? そうなんですか?
確かにニュースになるのは、有名な超大手企業ばかりだけど、実際、海外取引を行っている法人に対する実地調査は毎年1万件以上行われているのよ。
へー、知りませんでした。ところで、今更で恐縮ですが、「移転価格税制」って何ですか。
移転価格税制とは、企業が海外のグループ企業との間の取引価格(=移転価格)を調整することによって、その所得を国際間で移転させることに対処する税制なの。
対象となる取引は、資産の購入や販売、役務の提供、融資、無形資産(特許料等)に対するロイヤリティの授受など、グループ間で行われ企業の損益に結びつくすべての取引ですよね。
ええ。そうした取引に際してその取引金額が、第三者間での取引価格(=独立企業間価格)と相違していると判断される場合、その取引が独立企業間価格で行われたものと見なして会計処理をやり直し、その結果表れる未申告の所得額に対して課税されるの。
つまり、身内同士の取引価格を設定して、うまいこと海外に所得を移しているのが当局にバレると、その移した分の所得にもきっちり課税される、ってことですね。
まあ、おおざっぱに言うと、そうなるかしら。制度の目的は、適正な国際課税を実現することよ。
ちなみに、移転価格に関する課税当局からの資料提出要求に対して、独立企業間価格を算定するために必要な書類等を企業が提示しなかった場合、当局は推定課税をすることができるんです。
つまり、当局の言い値を払わないといけなくなるってことですね。
いちいち単純化するわね…。でもまあそういうことよ。それだと企業にとって不利でしょう? だから、当局から資料提出を求められた時に取引価格の合理性を説明することができるよう、契約書をはじめ、独立企業間価格の算定に関する書類等をきっちり準備しておくことが大切なの。
いわゆるローカルファイルなどの「文書化」義務への対応ですね。
そうね。一定規模以上の取引を行った企業には、「ローカルファイル」と呼ばれる独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類を、確定申告期限までに作成・保存することが義務付けられているわ。ほかにも、企業規模によってはいくつかの文書を提供することが義務付けられているの。
ちなみに、移転価格課税の制度があるのは、日本だけじゃありませんよね?
ええ、海外子会社がその国の税務当局に課税される可能性だってあるの。
なるほど。多国籍企業グループを要する我が社で働くからには、各国の移転価格税制をしっかり研究して「自発的な税務コンプライアンス」を心掛けたいものですね。(と胸を張る)
ゼロからのスタートが、むしろすがすがしい!
足尾さんは伸びしろがあっていいわね。(笑)
【移転価格税制と企業】
◆移転価格税制とは、グループ企業間で行われる、企業損益に結びつくすべての取引を通じた所得の海外移転に対処し、適正な国際課税を実現することを目的とした制度である
◆自社の取引価格の合理性を説明することができるよう、独立企業間価格の算定に関する情報等の「文書化」が義務付けられている
◆移転価格税制に適切に対応する「自発的な税務コンプライアンス」が求められている
<< 一覧へ戻る