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人事部 報酬・労政グループの芦澤幸裕氏とダイバーシティ推進室の米奥美由紀氏

第52回 アステラス製薬株式会社(2)

前回に引き続き、アステラス製薬株式会社におじゃましています。今回は、女性営業職がより活き活きと働き続けるための制度として設けられた「結婚時同居支援制度」についてのインタビューからスタートします。

(インタビュアー:大麦)

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「結婚時同居支援制度」とはどのような制度ですか?

米奥氏  MRなど営業職を対象にした制度で、2008年4月に導入しました。配偶者と同居できるエリアに異動できる制度で、社内外を問わず、配偶者が正社員であれば男女を問わず利用できます。申請があれば、会社が同居可能な地域を検討して、勤務地を決定します。

どのような背景から生まれたのですか?

米奥氏  営業本部で立ち上がった「女性MRプロジェクト」で検討して制度化されました。女性MRの採用数は年々増加しているものの、退職率が男性MRの約5倍であり、その理由の約半数が結婚であることから、結婚・出産後もMRを続けるための阻害要因となる、「拘束時間が長い」「勤務地が選べない」ということへの対応策として考えられました。

制度導入の成果はいかがですか?

米奥氏  女性MRの2005年度から2007年度までの離職率は、10.9%、16.4%、10.1%と推移していましたが、導入後の2008年度は6.1%と大幅に改善しました。2008年度の利用者は男性7名、女性4名です。
社員は、こういった制度は、自分たちに働き続けてほしいと会社が考えてくれている証なのだから、制度を活用してしっかり働いていこうというようにとらえてくれています。この制度以外にも、短時間勤務などの制度も拡充していますので、仕事を継続してほしいという会社のメッセージとして前向きにとらえてくれているのではないかと思います。

「在宅勤務制度」を導入されていますが、どのような形で進められているのですか?

芦澤氏  最終的には、組織全体のパフォーマンスの維持・向上が確保されることを前提に、申請者の職務内容・資質・頻度・期間に応じてマネージャーが許可することにしていますので、人事部からは、二つだけガイドラインを示して、具体的な対象者や在宅の回数などは各職場に任せて進めてもらっています。

ガイドラインとはどのようなものですか?

芦澤氏  まずは、在宅勤務の対象者を大きく二つに分けました。ひとつは、育児・介護などのライフイベントが理由で在宅勤務を希望する人、もうひとつは、海外との情報連携や長時間通勤などとの両立のために在宅勤務を希望する人です。
前者の場合は、少なくとも週に1回は職場にくるというガイドラインを示して、それ以外は、各自のライフイベントの状況に応じて本人と上長で決めてもらっています。
後者は、在宅の回数の上限を週に1回とするガイドラインを設けました。ただし、ガイドラインはあくまで指針ですので、遵守しなければいけないというものではありません。ガイドラインを参考に、在宅勤務の必要性に応じて本人と上長で決めてくださいという形にしています。

対象者や回数まで現場に任せるというのが特徴的ですね。

芦澤氏  在宅勤務にかかわらず、すべての制度について社員が実際に使える形にするようにトップから指示されています。在宅勤務についても、制度は導入したが制約がありすぎて使えないという形にはしたくないと考えて、実際の運用の部分は、現場に委ねています。

利用状況はいかがですか?

芦澤氏  2009年10月からの導入ですが、各部署の上長が在宅勤務の対象として認めた社員は、現在130数名います。正式導入前に、2008年度の下期に半年間、公募形式でトライアルを実施しましたが、こちらは60名強の社員が利用しました。

トライアルを実施して、何か課題は出てきましたか?

芦澤氏  半年間のトライアルの結果、解決しなければならない課題がいくつか出てきました。それに対して2009年度の上期に検討を重ね、下期から本格稼動することができました。在宅勤務をするにあたって一番問題になるのは、情報漏えいです。それに対して、自宅では印刷をしないという方針を出しましたが、トライアルを実施したところ、印刷できないと困るという声が多数出てきました。

それに対してどのように対応したのですか?

芦澤氏  検討の結果、利用者の利便性よりも会社としてのセキュリティを優先すると決めました。どうしても印刷しなければならない場合は、その業務は在宅に向かないと判断し、正式導入の際も印刷は禁止としました。

それ以外にも課題は出てきましたか?

芦澤氏  もうひとつの大きな課題は、コミュニケーションの問題でした。これは必ず在宅勤務を実施する二日前には上長の許可を得ることにして、対面で行うべき内容は、その二日間で行ったうえで在宅勤務をしてもらうことにしました。また、在宅勤務日を関係者に事前に案内したり、内線電話を携帯電話に転送する設定をするなどの工夫をお願いしています。10月からの正式導入を受けて、今後新たな課題も出てくると思いますので、半年後に、課題と成果を再整理したいと考えています。

社員へ成長する機会を提供するための仕組みとして設けられている、「ジョブチャレンジ制度」とはどのような制度ですか?

芦澤氏  「ジョブチャレンジ制度」は、自分のキャリアを磨くための制度で、社内リクルート制、社内フリーエージェント制、グローバル・キャリア・エントリー制の3つからなっています。社内リクルート制は、各部が必要とする人材を社内で公募するというものです。社内フリーエージェント制は、社員のほうから「自分はこういう仕事ができます」と手をあげるもの。グローバル・キャリア・エントリー制は、海外で経験を積みたい人が手をあげるものです。

「転進支援制度」も設けられていますが?

芦澤氏  こちらは、社外で新しいキャリアを目指したい人のために一定の経済的支援をする制度です。転進先を決めるための就職支援会社の紹介もしています。

社員の反応はいかがですか?

芦澤氏  「ジョブチャレンジ制度」は大変好評で、競争率は非常に高いです。通常の人事異動に比べて、本人が希望しての異動になりますので、社員のモチベーションの向上につながっています。

さまざまな制度や取り組みを進めていますが、社員へはどのような形で周知しているのですか?

米奥氏  出産・育児・介護などのライフイベントに関する制度は、社内イントラのなかのひとつのページでまとめて見られるようにしています。新しい制度については、資料を読めば理解できるものは通常の情報伝達同様、マネージャー経由で伝えてもらっています。そうではなくて、たとえば在宅勤務制度などのように、運用の方法に留意が必要な制度に関しては、人事部が各部門・各事業所で説明会を開催しています。その上で、さらに周知徹底するための施策として、ポスターを掲示するなどの工夫もしています。

ワーク・ライフ・バランスに取り組まれて、労働時間の削減、生産性の向上、退職率の低下などの成果が出ていらっしゃいますが、社員のみなさんに目に見えた変化はありますか?

米奥氏  「FFDay」の日は、みんな早く帰れていますし、金曜日は楽しい日ということで、いつもと雰囲気が違うような気がします。また、育休取得者も年々増えており、共働きで子供をもつことに対して制度が整ったことで、キャリア継続の意識が高まっていると思います。新卒の女性採用比率も増えています。

取り組みが成功した要因はなんだとお考えですか?

米奥氏  「トップのコミットメント」、「労使共同」、「取り組み状況の見える化」の3つだと思います。労使で一緒に考えてきたということが、非常によかったと思います。また、合併会社であるということも大きいと思います。旧社にこだわらず、新しい会社をつくろう、常に「アステラス・ベスト」とは何かを考えてきたことが、成果につながっていると思います。

他社との連携もされていますが?

米奥氏  ワーク・ライフ・バランスの追求を通じて、働き方を変える、日本の社会の労働生産性をあげていくということは、一社だけではできないと考えています。当社は2007年より、女性の活躍促進に経営戦略として取り組み、推進することを目的にしたNPO法人に参加しています。そこを通じて他社の先進的な取り組みを詳しく知ることができますので、それを参考に、当社としての具体的な施策を検討してきました。このNPO法人へ参加されている企業は、自社はもちろん、日本社会における女性の活躍推進のために、さまざまな角度での情報連携・ネットワーキングに取り組んでいます。ワーク・ライフ・バランスについても同じように、日本の社会全体で手を取りあって、働き方を変えていかなければならないと考えています。

取り組みを進めるにあたって、最も苦労したのはどのようなことですか?

芦澤氏  今回の取り組みは、人事部から一律にこうしてください、という形で進めたのではなく、各組織でどうやったらうまくいくか考えてくださいという形で進めていますので、各部の足並みがそろわないという苦労はありました。当然、各マネージャーの考え方が異なりますから、賛同してくれる人もいれば、反発する人も出てきます。取り組みの意義を理解してもらうなど、どういう形でもっていけば取り組みに参加してくれるかと考え、働きかけをしました。

米奥氏  やはりトップの思いがダイレクトにすべての社員に正しく伝わらないということでしょうか。トップと同じように理解してもらうためには、繰り返し繰り返し伝えていくしかない、まさに「継続は力なり」だと思っています。

今後、どのように展開していきたいとお考えですか?

芦澤氏  ここまで取り組みを進めてきましたので、今後は、一人ひとりの社員が、会社で過ごす「時間」について考えたときに、よく会社の経営資源として、「人・もの・金」と言いますが、それに加えて「時間」も大事な経営資源なんだということを理解してもらえるようにしていきたいと考えています。そうすることによって、ワーク・ライフ・バランスというものが、一人ひとりの社員におちてくるのではないかと思います。

米奥氏  大賞を受賞するくらい、会社としての制度は充実してきていますので、それを各職場でうまく運用してほしいと考えています。権利だから主張するのではなく、お互いが、上司・部下・同僚という関係のなかで、うまく協力し合うことで、当社の社員として活き活きと働けるようにしていきたいと考えています。また、さまざまな形で当社の取り組みを発信していくことで、日本の社会全体の働き方を変えていくことができればと考えています。

トップの考えを現場の社員が受け止めて、各職場で、どうしたらワーク・ライフ・バランスを追求しながら、より高い成果を発揮しつつ、活き活きと働き続けることができるかを日々考え、取り組んでいる様子が伝わってきました。今日はありがとうございました。

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*この記事は2009年11月に取材したものです

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