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人財部社員サービスセンター課長、鬼沢裕子氏

第18回 株式会社ベネッセコーポレーション(2)

前回に引き続き、株式会社ベネッセコーポレーションにおじゃましています。今回は、次世代育成支援対策推進法に基づく「行動計画(第1期)」のなかの男性の育児休職取得推進の取り組みを中心に、「くるみん」マーク取得後の「行動計画(第2期)」の取り組みなどワーク・ライフ・バランス(WLB)施策の今後の展開と、社員の方々のメンタルヘルスケアについてもお聞きします。

(インタビュアー:大麦)

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「男性が育児休職を取りやすい環境への取り組み」も行動計画(第1期)に掲げられています。2005年度までは男性の取得者がゼロだったそうですが。

鬼沢氏  「はじめの一歩」が大切だということをつくづく感じました。誰かが勇気を持って始めなければいけない、やはり1例目が出ると2例目、3例目が出やすいと実感しています。それを後押ししたのは、やはり06年12月の制度改定による育児休職期間中の2週間の有給化です。

どのようなきっかけで、有給化となったのですか。

鬼沢氏  実際には奥様の出産のときなどに有給休暇や(配偶者)出産休暇を取ったりして、育児のために休みをとっている男性社員の例は何例かありました。休職するとまったくの無給になりますが、有給休暇が残っているのならそれを使おうということです。また、今までの例では、男性の場合は長期間休むというよりも奥様の出産前後の短い期間を休みたいというものが多く、その程度の期間であれば有給休暇で足ります。当社の事業内容のせいもあるでしょう、男性社員であっても休んで育児を経験したことが仕事に生きるので、育休をとるべきだという声もありました。一方で、奥様が専業主婦であったり育児休職中であったりすると、収入が途絶えてしまうのは非常に不安であるという声も聞かれました。実際に子どもの生まれた男性社員にもヒアリングをしてみましたが、やはりネックは経済面のようでした。

経済的な部分が問題だったということですね。

鬼沢氏  当社の場合、女性の育児休職制度の活用に20年の積み重ねがあるからでしょうか、出産・育児休職をとっても仕事に戻るというのは当たり前の風土があるのだと思います。周囲の目が気になってとりにくい、などの声は非常に少なかったです。経済面での不安が育休取得の足かせになっているのならば、経済的な部分を支援しようということになり、育児休職期間の最初の2週間を有給とすることにしました。

有給化の成果はいかがですか。

鬼沢氏  トータルで20人の男性社員が育児休職を取得しています(取材時2008年4月現在)。昨年度1年間で12人です。07年には有給の期間を3週間とし、06年、07年と制度改定のたびに増え、そうこうしているうちに1カ月や100日という長期で取得する社員が出始めました。

社員の方々にはどのように周知しているのですか。

鬼沢氏  人財部からの積極的な社内広報。そして「親になること」を応援していく事業を行うParenting事業本部の社員達が、「まずは自分たちから」という意識で熱心に取り組んでくれています。仕事にも直接・間接に生かせることが多いという声が多くあります。

育児休職を支える周りの社員の方々の反応はいかがですか。

鬼沢氏  育児休職を取得している男性社員の上司にアンケート調査を行いましたが、1カ月くらいなら人員を補充しなくても現場はなんとか回るということでした。これが2カ月、3カ月となってくると、ほかのメンバーで仕事をシェアするのもつらいという声はあります。「1カ月くらいなら大丈夫」という現場の声を得て制度改定を行い、08年4月からは有給期間を1カ月間にしました。制度改定を行って今年度に入ってから育休取得について相談に来ている男性社員が何人かいます。

06年から08年にかけて2週間、3週間、1カ月と期間を延ばしてきていますね。段階的に延ばしてきたことにはどんな理由があるのですか。

鬼沢氏  ノーワーク・ノーペイという考え方がかなり浸透していたので、「なぜ育児休職だけが有給なのか?」という疑問の声が上がるのではないかという、懸念がありました。独身の社員たちにとっては自分たちが仕事もシェアしているのに、休んでいる人がお給料をもらえるのはどういうことなんだろうと思う社員が一部にいることも事実です。しかし、仮に育児を経験することはなくても介護については誰もが当事者になる可能性はあるので、そこは“お互いさま”という考え方ができないだろうか、という形で浸透させてきています。また、育児休職後に復帰してきた社員が以前にも増して仕事をがんばっている姿を見るなかで、徐々に納得感を得ていくということの効果もあったと思います。

介護休職の制度はどのようになっているのですか。

鬼沢氏  介護休職の場合は最初の1カ月間は有給の欠勤扱いとなり、それ以降は休職扱いになります。断続的でも連続でも介護者1人につき1年間は休職できる仕組みです。介護休職者は少なく、昨年度も4、5人です。当社は社員の年齢層が比較的若いのでまだ少ないのですが、これから増えてくると思います。

(「くるみん」マーク 2007年6月取得)

行動計画の第2期が07年4月から始まりました。09年3月までの2年間ではどのようなことをテーマとされているのですか。

鬼沢氏  とりわけ新しいことを考えているわけではなく、第1期のテーマをさらに進化(深化)させようと考えています。特に、長時間労働の是正と時間の融通性をより進めることを目指しています。時間の融通の面は、具体的には在宅勤務の制度化や裁量労働制をもう少し広めようと考えています。編集など時間管理にはなじまない職種に極力裁量労働の形を取り入れて、在宅勤務とセットで広めていこうと考えています。裁量労働制については現時点で社員には考え方の説明まではしていて、おおむね歓迎という手ごたえを得ています。

そのほかには、何か計画はありますか。

鬼沢氏  まだまだ検討中ですが、再雇用制度をもう一度、あらためて整備したいと考えています。一昨年度からOB、OGの方に登録してもらう制度はあるのですが、あまり活用されていません。校正業務や原稿執筆などの業務委託形式での活躍はあるのですが、もう一度正社員や契約社員に戻って働くというスタイルは少ないので、そこは模索中です。それから、男性の育児休職取得促進をさらに進めたいと考えています。07年度で、増えたとはいえ、取得しているのは子どもの生まれた男性社員の3割程度です。希望者の100%が取れるような環境を目指しています。

(ベネッセコーポレーション 行動計画(第2期)概要)

社員のメンタルヘルスについてはどのように取り組まれていますか。

鬼沢氏  当社でもメンタル不調で休職する社員は世間並みに発生しており、残念ながらここ数年減っていません。悩みを1人で抱えこんでしまうことが根本の原因であるという考えに立ち、「相談デスク」を08年度から設けました。もちろんこれまでも人財部の中に相談機能はありましたが、「人財部には敷居が高くてなかなか来られない」という状況があったと思います。また一方、EAPの存在もあらためてアピールしています。さらに、精神科医を専属産業医として迎えました。不調になったときに本人が気づかないケースが多いので、上司や周りの人からどんどん相談に来てもらえる体制を目指しています。以前に比べると相談のケースも増えてきています。本人が自発的に相談に来るように、上司から促してもらうようにしていますが、中には上司が本人を連れて一緒に来ることもあります。相談が早いほど早く回復するようなので、早めに相談に来るように促しています。
※従業員支援プログラム(Employee Assistance Program)。企業が外部団体と契約して社員の心の健康をサポートするシステム

一般的には長時間労働が要因となるケースも多いようですが、長時間労働者についてはどのような対策をされていますか。

鬼沢氏  当社では長時間労働者への面談を法定よりかなり手厚くしています。当社の所定労働時間は1日7時間なので法律の基準よりも1カ月に約20時間短い設定で面談をしています。管理職に関しても休日が取れていない状況が2週間以上続けば面談対象としています。また、数カ月間の平均残業時間もチェックしています。ここは試行錯誤している点でもあるのですが、1カ月では問題がなくても、長時間労働が何カ月か続くことでじわじわと不調をきたすというケースもあるようなので、現在は3カ月連続である基準を超えた際には面談を実施するといった形をとっています。

メンタルヘルスでの休職者の復職率はどのくらいですか。

鬼沢氏  7~8割くらいでしょうか。復職支援としては、休職開始時点からの担当制によるサポートや、復職の見通しが出てきた時点から会社の中の図書館を通勤訓練のための場に提供するなどしています。あくまでも自主性に任せていますが、最初は2時間、次に半日、7時間と時間を徐々にのばし、勤務できるかどうかをトレーニングしてもらっています。厚生労働省の出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」などを参考にしながら、当社なりの独自の復職支援プログラムを作っていこうとしているところです。

WLB施策全般を進めるにあたって、今後の課題をお聞かせください。

鬼沢氏  WLBは次世代育成支援対策推進法との関連で、どうしても子育てや介護と仕事との両立ということにつながってしまいます。当社には独身の社員も相当数いるので、その層のWLBをより充実させていくことが次の課題だと考えています。日本の中でもまだまだファミリーフレンドリー以外のWLB施策がないのが現状です。自己啓発支援などがその中心になるのかなと考えています。例えば、留学のための休職制度やボランティア休暇を求める声はあがってきています。

具体的には何か計画されているのですか。

鬼沢氏  福利厚生の制度については10年度に向けて見直しを行っていく予定です。95年度に人事制度を成果主義に大きくシフトした際、属人的な手当(持ち家手当や家族手当など)をすべて廃止することに決め、少しずつなくしてきました。10年度には全廃する予定で進めてきているのですが、今あらためてWLBというキーワードを考えたときに本当にそれでよいのか、もう一度考えているところです。住宅、自己啓発(自己投資)、レク、健康増進など、社員一人ひとりの価値観にできるだけ合うような原資配分の方法を考えたいと思っています。

社員個々の希望に合わせた福利厚生という点では現在もカフェテリアプランを実施されているようですが。

鬼沢氏  そうですね。現行制度も含めもっと大きく捉えて再設計しようということです。現在のカフェテリアプランもおおむね好評で、家族や子どもの有無にかかわらずに活用できるメニューを増やしたりもしているので全体の活用率も上がってきています。それをもっと大胆に、例えば住宅を充実させたい人には住宅関連の支援、自己啓発をしたい人には自己啓発の支援というように、自分の希望する分野に対して持ち点を使える制度ができないだろうかと考え始めています。10年度の改定を目指し、社員の声を聞き始めたところです。

今後の方向性についてお聞かせください。

鬼沢氏  WLBにしても女性活用にしてもいえることですが、どこの企業も熱心に取り組んでいて、制度に関しての表面的な差はなくなってきているように思います。どれだけ自然に運用できているか、その環境で差が出てくるのではないかと思っています。当社は幸い、時短制度や男性の育児休職取得などを当然のこととして受け入れる風土が根付いています。今後も社員の一人ひとりがWLBに取り組みやすい環境づくりをさらに進めていきたいと考えています。

本日はお忙しいなか、ありがとうございました。

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