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法務部部長の山崎凡生氏と法務課課長の佐々木真氏

第42回 大和リビング株式会社(2)

第42回も、前回に引き続き大和リビング株式会社を訪ねました。イントラネット上の「法務部ホームページ」、「コンプライアンスマニュアル」のことなどについて、法務部部長の山崎凡生氏と法務課課長の佐々木真氏のお二人にお話をうかがいました。

(インタビュアー:たなやん)

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大和リビングさんにとってのコンプライアンスの考えをお聞きできますか?

山崎氏  これからの賃貸管理業務は、ますます「サービスの品質」の競争になります。優良な顧客(入居者)と優良なオーナーに選ばれる会社でありつづけることが、厳しさを増す競争に勝ち残る条件となります。優良な入居者・オーナーは、賃貸管理の品質に「安心、安全、信頼」を求めています。コンプライアンスの精神を胸に刻んで行動することは、「安心、安全、信頼」を提供する基礎になり、ひいては、大和リビングのブランド力を高めていく力になると信じています。

リスク管理についてはいかがですか?

山崎氏  企業活動にリスクはつきものだが、「リスクとわかっていて、事前にリスクを最小限に抑える手当をして、リスクを積極的に取りにいく」のと、「そもそもリスクがあることに気づかず行動して、無駄な損害を発生させる」のとでは、雲泥の差があります。
前者は賢く勇気がある行動ですが、後者はただの愚か者であり、皆に無駄に損を被らせる行動です。コンプライアンスの意識が欠如していると、後者のような愚かな行動に平気で走ることになります。
また、コンプライアンスを理解していると、入居者やオーナーの要求が、法律的に正当な要求か、それとも不当な要求で応じる必要がないかも判断できるようになります。
つまり、コンプライアンスを推進することは、事業活動面でリスクマネジメント(リスク管理)を有効に進めることに繋がります。コンプライアンスとリスク管理とは、表裏一体の関係にあります。

コンプライアンスとリスク管理は表裏一体で、動的なプロセスですね。

山崎氏  企業は日々活動し、新しいことに取り組み、組織を変え、進化していく生き物です。世の中も、法律も、変わっていきます。ですから、コンプライアンスやリスク管理も、「これで出来上がり」ということはありません。むしろ、PDCAの動的なプロセスを経て、進化していくものです。
そこで大切になるのが、もしルールが守られていなかった場合、守らせる仕組みに漏れがあったのかどうかを確認することです。そして、漏れがあったら再度ブレークダウンし、仕組みの漏れを直すことです。または、そのルールが実情にあっていないことも考えられます。その際は、ルールを改善しなければなりません。
大和リビングはコンプライアンス・リスク管理委員会により、コンプライアンスの推進とリスク管理等を、一元的に管理・運営する体制となっています。そして社員の皆さん一人ひとりは、このD(実行)とC(チェック=報告、状況把握)のプロセスを担っています。
会社にとって社員の皆さんは、「上が決めたルールだから従う」受け身な人ではなくて、「コンプライアンスとリスクマネジメントのプロセスを担う人」だということを、理解していただけたらと思います。
そのために、今回、コンプライアンス・リスク管理委員会の模様をビデオに撮り、社員の皆さんに閲覧してもらう機会を設けることにしました。大和リビングは、全国に支社・営業所が約100箇所あり、支社の人たちが社長に接する機会は少ないので、トップメッセージを伝えるいい機会になればと思っています。※クリックすると拡大します

コンプライアンスとリスク管理を担う人(社員)へのメッセージはありますか?

山崎氏  社員の皆さんの多くは法学部の出身ではなく、法律を体系的に学んだ経験はゼロの方がほとんどです。「不動産賃貸業に関連する法律を、隅々まで理解すること」は、全く必要ありません。大事なことは、日々の仕事で関連してくる法律などの「勘どころ」を押さえることです。勘どころを押さえていれば、具体的な事案にぶつかったときに、「待てよ、これは消費者契約の観点で、大丈夫なのか?」と「引っかかり」が出てきます。正確なこと、詳しいことは、法務部など専門部署に聞けばよいのです。
法律やコンプライアンスの勉強のコツを一つ。法律は、細かいことを気にしだすと際限がありません。「勘どころ」を押さえる気持ちで、なるべく大づかみに理解するとよいでしょう。そして、具体的な事例で考えるのが、興味がわくコツだと思います。

各支店・営業所からコンプライアンス上、問題となった事例を集めて、独自の「コンプライアンス事例集」をおつくりになっているとうかがいました。


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佐々木氏 イントラネット上に「法務部ホームページ」があり、そこで「コンプライアンス事例集」を公開しています。過去3年間の蓄積があり、すでに二百数十事例を蓄積しています。例えば、支社などで、「こんなとき、どうしたらいいんだろう」と迷った場合、法務部に連絡してもらい、それに回答すると同時に、法務部ホームページに「質問・相談」として公開しています。一例をあげれば「捜査関係事項照会書が来た。個人情報を出していいのか出すべきか。どこまで出していいのか。」といった具体的な事例を寄せてもらっています。それに対する法務部の所見を公開しています。


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社員の皆さまの反応はいかがですか?

佐々木氏 ホームページに法律の解説だけをしてもなかなか見てもらえませんが、消費者契約法など、ホットな話題には、すぐに反応があります。コンプライアンスをむずかしく考えるのではなく、事例ごとに個別の問題を身につけていけるように心がけています。
コンプライアンスの対応は、法律だけで決められているわけではありません。同じ課題でも、会社ごとにそれぞれの対応というものがあります。まずは、事案を出してもらうこと、その出してもらった事案に対して、「教えてくれて、ありがとう」という態度で臨むことが大切です。質問・相談を受けるときに大事な点は、「隠さないこと」「怒らないこと」です。私たち法務部の仕事のお客様は社員ですので、「飽きさせない」「仕事につながる」コンプライアンス教育をめざしています。


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日本全国のネットワークが支店・営業所を合わせて約100箇所あるそうですね。どのように研修をされているのですか?

佐々木氏 まずは、「無駄な出張はするな」「業務は止めるな」という命題があります。研修ということであれば、マネージャー研修が多いのですが、約100支店ありますから現役のマネージャーとその予備軍で、合計300人くらいが対象になります。その人たちに、コンプライアンス研修をして、若い人たちに伝えてもらおうと思ったのですが、若い社員に伝わっていない、自分の言葉で伝えられないという実態でした。
そこで、支店・営業所の全員が受けられる仕組みが必要だと考えました。当初は、イントラネットで配信をしました。ところが、みんながアクセスしたらシステムが止まってしまい、業務に支障が出てしいました。全国に約100支店もあると、イントラ的に改善できるわけでもないので、それ以降、時間帯を変えて対応しました。
今度は、営業所長がレクチャーをする、法務部がその材料を用意しようという仕組みを考えました。すると、例えば、「実務に沿った解説をしてほしい」「契約書の逐条解説をしてほしい」などなど、いろんな意味でリクエストが返ってきました。そういう要望をくみ上げて、「飽きさせない」コンプライアンスの教材を、また「仕事につながる」コンプライアンス教材を作るように心がけています。そうなると、自分たちの仕事につながるので、多少時間がかかってもやってくれるわけです。

全従業者向けの「コンプライアンスマニュアル」をお作りになるそうですね。そのきっかけは何ですか?

佐々木氏 派遣社員さん、アルバイトさんまでも含めた全従業員向けに「コンプライアンスマニュアル」を作っています。コンプライアンス違反や事故は、コンプライアンスについての研修などをやっていないとことで起こるものです。モチベーションも高めなければいけません。不動産業についての法律やコンプライアンスについて、全部わかれとは言いませんが、意識してほしいんです。意識だけはしておいてほしいというメッセージを届けておかないと、事故は防げないんです。

不動産賃貸・管理業のためのコンプライアンス入門
「不動産賃貸・管理業のためのコンプライアンス入門」

どのようなものですか?

佐々木氏 いま、2色刷で200ページくらいのマニュアル(『不動産賃貸・管理業のためのコンプライアンス入門』)です。それを全従業員がカラーコピーすることを思えば、本にするのは安い費用だと思います。それに、これをコンプライアンスだけでの経費と考えると、すごい費用だと思われがちですが、そうは考えないで、全業務のことだと考えてみれば、とても安いと思います。
コンプライアンスマニュアルとその理解度を測るウェブ上のテストを用意しているのですが、このマニュアルによるコンプライアンス研修で、事故が防げて、大和リビングの「信頼」の向上につながり、ひいては、業績アップにつながればいいと思います。

全従業員にマニュアルを配布するメリットはなんですか?

佐々木氏 逆に集合研修で全国から人を集めて教育をするのは、仕事を止めることでもあるんです。「1日だけ仕事を止めなさい」というわけにはいかないんです。また、前泊の費用もかかります。実は、これが大きいんです。それに引き換え、マニュアルはいつでも、どこでも手にすることができます。業務を止めることもありません。

ありがとうございました。

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*この記事は2009年5月に取材したものです

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