(インタビュアー:えり)
ダイバーシティ推進室ではどのようなことに取り組んでいるのですか?
青沼氏 ダイバーシティ推進室は08年4月に人事部のなかに新たに設立されました。ダイバーシティを推進していくために、「管理職の意識改革」「社内コミュニケーションの推進」「ワーク・ライフ・バランス」――この3つを09年度の重点項目に掲げて活動しています。
なぜ、この3つを重点項目としているのですか?
青沼氏 08年の当推進室発足時に掲げたのが、「女性活躍推進」「障がいを持つ方の労働環境の整備」「ワーク・ライフ・バランス」でした。ただ、取組みを進めるうちに、ダイバーシティの重要性を管理者レベルがしっかりと理解しないことにはなかなか進まないという壁にぶつかり、09年度の目標に掲げ、管理職研修やeラーニングなどの機会をとらえて、管理職の意識改革を促しています。また、ダイバーシティは社員一人ひとり、全員に関係のあるものだということを理解してほしいという理由から、今回はあえて漠然としたテーマを掲げています。
ダイバーシティに関する研修はどのように行っていますか?
青沼氏 年に2回、全社員にeラーニングを実施しています。09年度の上期は「KDDIのダイバーシティを考える」と題して、「KDDIのダイバーシティ」ハンドブックという冊子をもとに、「なぜダイバーシティなのか?」の理解を促すことと、ダイバーシティを実践するためのヒントを実践編という形で実施しました。下期のテーマは「ワーク・ライフ・バランス」です。管理職向けにタイムマネジメント研修を実施したところ、上司が時間外勤務に対して厳しくなっているようだとの反響もあり、少しずつではありますが成果があがっていると感じます。対面の集合研修はそれほど回数が多くないので、できるだけ効果的な内容にしていきたいと考えています。
総務・人事本部人事部ダイバーシティ推進室 室長 青沼真美氏
全社員を対象とした意識調査も実施しているそうですね。
青沼氏 当社では03年から「TCS(トータル・カスタマー・サティスファクション)※」の推進に取り組んでおり、社員がどのようにCS意識を持っているのかなどを測るための「TCS基礎調査」も行っていましたが、いわゆるES調査は社長直轄の女性活躍推進プロジェクト「Win-K」が07年に立ち上がったときに「ダイバーシティに関する意識調査」として実施しました。その後、経年変化を追っているのですが。09年は「TCS意識調査」と併せて「KDDI解体新書」と銘打って、上司との関係やKDDIで働くということなどについて調査しました。
※すべてのステークホルダーをお客様ととらえ、お客様の満足を追求するという考え方。
女性活躍推進プロジェクト「Win-K」に取り組み始めたのはなぜですか?
青沼氏 一般的に社会環境の変化やマーケットの変化などに対応するために女性活躍推進に取り組み始める企業も多いと思いますが、当社の場合、コアビジネスである携帯電話事業においてお客様の半数は女性であり、本当にお客様のニーズに応えた商品やサービスを提供できているのか、女性ならではの視点や感性を生かしていかなければお客様のニーズには応えられないのではないか、という観点で、03年ごろからポジティブアクションという形で制度改定や研修等が行われてきました。それを形として、あるいは仕組みとしてプロジェクト化したものが「Win-K」なのです。
「Win-K」と連動して、女性管理職によるロールモデルフォーラムも開催されたそうですね。
青沼氏 意識調査の結果にも出ていますが、男女を問わず意識のギャップがあるので、そこを埋めるねらいがあります。また、女性社員が18%と少ないので、どうしても孤立感を抱えがちということもあります。同じ女性として分かり合いたい問題もあるでしょうし、そうした仲間がいることの心強さなどを感じてもらいたいと考えています。2年を1タームとして活動する「Win-K」メンバーが、ターゲットとする社員層を決め、プチフォーラムやロールモデルとなる社員を招いたランチミーティングなどを開催しています。09年の4月からは第2期が始まり、男性社員もメンバーに入ってもらっています。やはり女性社員に限定すると、男性社員にとって「自分たちには関係のないこと」と捉えられてしまいがちです。女性活躍を推進させるためには8割を占める男性社員の理解は不可欠ですので、そこは相互理解を深めながら進めていきたいと考えています。
08年度にワーキングマザー向け情報交換サイト「K mom’s N.W.(KDDIワーキングマザーネットワーク)」を立ち上げたそうですね。
青沼氏 当社では、育児休職中の社員は「wiwiw※」を利用できることになっています。ところが、育児休職中は「wiwiw」を使えても、復職後はネットワーキングがなくなってしまうという状況でした。もちろん、「wiwiw」でのつながりは個人的には続いているのでしょうが、ワーキングマザーということで抱える悩みや課題には共通するものが多いため、情報交換をしたりお互い刺激しあったりする場になればと思い、立ち上げたものです。
※株式会社wiwiwの提供する、インターネットによる育児休業者のための職場復帰支援サービス
サイトの利用状況はいかがですか?
青沼氏 登録者は増えていますが、書込みを増やすなど、活性化を図りたいと考えています。また、勤務時間中に仕事につながる貴重な情報を得るためにサイトを閲覧していても、周囲からは必ずしもそう見られない、ということが当初はありました。現在は、携帯電話からの接続が可能となり、通勤時間等を活用してアクセスできるよう、工夫をしています。
09年には次世代育成支援対策推進法に基づき、仕事と育児の両立支援推進企業としての認定を受けましたね。認定を受けるにあたって、ご苦労された点はありますか?
青沼氏 当社はすでにある程度、制度が整備されていたために、一定レベルからさらに進めないといけないという点では難しい面もあったと思います。また、テレワーク制度の導入について長期間トライアルを重ねていた事情もあり、認定取得までに時間がかかったという経緯があります。テレワーク勤務制度はトライアルも含めると06年度からあり、長期にわたって試行錯誤を重ねていたことになります。06年度に始めたときは対象を限定した制度でしたが、現在は育児・介護短時間勤務制度利用者に関しては全員が対象となっています。
どのような制度になっているのでしょうか?
青沼氏 1カ月のうち8日を上限としてテレワークを可能としたり、月に一度出社すればよいとするなど、いくつかのパターンを用意しています。最も利用されているのは、月に8日のテレワークの制度です。この制度はおかげさまで、第10回テレワーク推進賞優秀賞を受賞しました。シンクライアント端末を利用しているので、セキュリティ対策も万全で会社とまったく同じ状態で自宅で仕事ができます。また、情報漏えいの問題を防ぐためにも、自宅で使うことを前提とした制度なので、自宅の位置をGPS登録し、自宅の位置が合わないとログインできないシステムになっています。現在の利用者は30名程度ですが、テレワーク勤務制度利用者とその上司からは「使いやすい」「便利な制度だ」と一定の評価を得ており、10年度は利用者を増やしていきたいと思っています。
労働時間の削減のためには、どのような対策をしていますか?
青沼氏 当初からノー残業デーを設定していたものの、形骸化している感もあり、2年前に再徹底を図る意味で、「水曜日のノー残業デー化」を改めて実施しました。現在は定着しており、社員も好意的に受け止めているようです。忙しい時期になってくると難しい面もありますが、曜日の振替を可能にしたり、eラーニングで効率的な働き方を考えるきっかけを提示するなど、社員にワーク・ライフ・バランスの観点からも自発的に考えてもらうようにしています。
そのほかには、どのような対策をしていますか?
青沼氏 限定的ではありますが、変形労働時間制のトライアルを実施しました。09年の8月~9月に実施し、残業が3割減るなどの効果が出た部門もありました。ただ、変形労働時間制という制度自体がなかなか浸透していなかったり、フレックスタイム制と同じ制度として誤解されていることもわかってきましたので、積極的な情報発信の必要性も感じています。
長時間労働がメンタルヘルスの原因として指摘されることもあります。メンタルヘルス対策としてはどのような取組みをしていますか?
青沼氏 一定期間にわたって長時間勤務が連続している社員やその上司に対しては注意喚起のメールを発信しています。また、メンタルヘルスの研修を集合研修で実施するほか、eラーニングも実施しています。全社員向けのeラーニングでは、心身の健康管理に自ら気をつけること、きちんとリフレッシュすることの大切さを理解してもらい、注意喚起を図っています。
ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスに取り組む中で、ご苦労されていることがあればお聞かせください。
青沼氏 ダイバーシティ全体としては理解が進んでいると思います。ただ、「総論賛成、各論躊躇」という感じでしょうか。個人的な考え方や価値観に根ざしている部分も非常に大きいので、会社の方針として浸透させるまでには相当の時間がかかると思います。担当者が地道に取り組んでいくことは当然ですが、積極的に推進している管理職もおりますし、一般社員でも、自分たちが変わらないといけないと考えている人も増えてきていると感じます。そういったサポーティブな方々と一体となって取り組んでいきたいと思っています。
個人の価値観に関わるだけに、難しい側面もあるのですね。
青沼氏 そうですね。その反面、ダイバーシティ推進に対して理解やサポートを得られていると感じる場面もあります。たとえば09年7月にダイバーシティ推進月間として、「“さん付け”運動」を行ったのですが、これに対する反響が結構ありました。当社は十数社の企業が合併してできた会社でもあり、各社の企業風土・文化として、肩書きで呼び合う会社、“さん付け”で呼び合う会社、さまざまで、合併後は部門や個人によってまちまちという状態でした。ダイバーシティの原点は相手がどんな人かを知ることなので、肩書きを外して個人として認識することから始めたいと考え、この運動に取り組みました。取り組み後、数カ月経って、「当然、やっているよ」という声や、「すごくよかった」という声を掛けてもらうこともあり、少しずつでも手応えを感じることができるようになってきました。
今後の課題をお聞かせください。
青沼氏 ダイバーシティは個人の考えや価値観に関わる問題でもありますが、社員一人ひとりがそれぞれの事情を抱えながらも、自分自身の個性を十二分に発揮するために推進する必要があります。そのための特効薬はなかなかないのですが、先ほど申し上げたように、少しずつでも増えているダイバーシティへの理解者のネットワークを広げていくことが、いずれダイバーシティやワーク・ライフ・バランスを推進する大きな力になっていくと考えています。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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*この記事は2009年12月に取材したものです
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