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法務部コンプライアンス室の室長・石川みどり氏と、高山靖弘氏

第20回 三井物産株式会社(2)

第20回も引き続き三井物産株式会社におじゃましています。コンプライアンスの徹底を推し進めるために「業績評価制度」を大幅に変更したそうです。

(インタビュアー:よっしー)

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コンプライアンス徹底のために、「業績評価制度」も変えたとうかがっています。

石川氏  業績評価制度ががらりと変わったことは、コンプライアンスを強く、深く、正しくまた速く徹底させるうえで、非常に影響が大きかったと思います。「未来に向けて種をまくような社会の役に立つ良い仕事、また自分自身が貴重な人生の時間を使うに相応しいと確信できるような納得のできる仕事を積み重ねていけば、利益は後からついてくる」という社長の方針のもと、業績評価の基準を大きく変えました。その結果、題目をならべただけのコンプライアンスではないということが社員にも伝わり、また社員自らがコンプライアンスについて考えるようにもなりました。

業績評価制度の変更というのは、具体的にはどのような変更であったのでしょうか。

石川氏  従来、当社の組織業績評価は、単年度の結果がすべてとなる定量評価が100%でした。

高山氏  単年ですぐに結果を出さないと部門がつぶれてしまうとか、事業から撤退しなければならなくなるとか、そういったプレッシャーがDPF事件のようなコンプライアンス違反につながってしまったという反省があります。そのようなプレッシャーを取り除くことが、結果的にコンプライアンスの徹底につながります。

石川氏  現在では、組織業績評価における定量評価の割合は20%に過ぎません。残りの80%は定性評価です。

高山氏  「三井物産は成果主義を捨てた」という言い方をされることがありますが、「すぐに数字で結果を出せ」と言わなくなったということです。単年の数字の結果ではなく、3年後、5年後と長い目でビジネスの絵を描き、一歩一歩着実に、仕事に取り組む時の物の考え方の順序を間違えずにやることを評価し、単年の数字に表れないような部分も含めて成果をはかるようにしています。

業績評価のほかに、個人の能力評価もあるそうですね。そちらにもコンプライアンスが反映されているのですか。

高山氏  ボーナスに反映される業績評価とは別に、基本給や昇格に反映される個人の能力評価があり、二つは時期をずらして実施されています。個人の能力評価でも、「経営理念に従った行動ができているか」ということが、評価の基準に入っています。そういう意味で、コンプライアンスが評価につながっているという意味は非常に大きいと思います。

石川氏  極端にいってしまえば、たとえ赤字の商売をやっていたとしても、当社の社員として誇れる人であれば、高い評価になります。また、一般社員の評価をする評価者を対象に、評価者研修を実施することで、評価をする人によって軸がぶれないよう細心の配慮をしています。

コンプライアンスの意識調査アンケートを毎年実施されているそうですね。

石川氏  三井物産単体とグループ会社の、役職員や派遣社員を対象に年1回実施しています。当社単体で5回目、グループ会社は3回目の実施となりました。一人20分程度で回答できる内容で、選択式の設問と、自由にコメントが記入できる設問にわかれています。匿名性を確保するために、回答の回収・集計は第三者機関に委託し、我々コンプライアンス室は結果だけをもらう仕組みにしています。

回答率はどのくらいですか。

石川氏  かならず回答するようにとお願いをしているわけではないのですが、三井物産単体で80%強、グループ会社ですと90%以上の回答率です。アンケートの結果は関係各部門にもフィードバックし、実際的な活動にしっかり役立てています。また、年次で「何件どんなことがあった」とコンプライアンス報告件数をまとめていますが、実は件数としては毎年増えています。それはかならずしも不祥事が増えているという悪いことではなく、ささいなことでも報告するという体制が根づいてきたということだと思います。

コンプライアンスの体制が確実に構築されつつあるわけですね。最後に、コンプライアンスに関する取組みで、今後の課題は何でしょうか。

石川氏  コンプライアンスとは雲の上の難しいことを語っているわけではありません。ただ、当社には膨大な数のグループ会社があり、業種も多岐に亘っています。グループ会社にコンプライアンスを浸透させるには、まだ道半ばです。

高山氏  現場を知り、状況を踏まえたうえでコンプライアンスを進めないと、コンプライアンスは根づきません。現場レベルでどういうコンプライアンス活動をしていくかにかかっています。我々コンプライアンス室がどのように支援をしていくかが次の課題です。

石川氏  たとえば食品関係の現場では、食の安全が非常に重要ですが、そういう話を鉄鉱石の現場にいる人にしても的外れです。それぞれの現場で、重点的に取り組むテーマは違います。

高山氏  たとえばeラーニングでも、三井物産単体用のものは、商社の目線でつくってあります。独禁法や外国公務員に対する贈賄防止など、商社にとってリスクの高い分野には重点がおかれているのですが、たとえば製造業や小売業に特有な分野は詳しく説明がされていません。そういった事情を勘案し、2007年度からはグループ会社向けには、三井物産単体と同じコンテンツのeラーニングを一律に提供するかわりに、我々はシステム(ポータル)を提供し、各社が自社の事情にあわせたコンテンツを導入できるかたちに変更しています。

石川氏  フレームを提供し、各社のニーズにあわせて活用してもらうようにしているということです。

高山氏  海外にもグループ会社がたくさんありますが、グローバルな企業として、コンプライアンスについては三井物産グループとして筋が通っていないとおかしなことになってしまいます。三井物産グループの一員である限りは、国内外を問わず「この方向を向く」という目指す方向性をわかりやすく示し続ける必要があると思っています。そのうえで、業界や地域性にあわせて具体化をしていくわけですが、三井物産グループ全体として目指す方向性と違うことはしないという考え方をしています。

石川氏  いま、我々が取り組んできたコンプライアンスのフェーズが変わろうとしています。コンプライアンスが何かというのはだいたいわかってきたのだと思います。それを実際、日々の仕事でどういうふうに取り込んでいくかという具体論に入ろうとしています。我々は「自主自律」という言い方をしていますが、グループ会社の現場で、自分たちにあったコンプライアンスを自ら推進していく必要があると感じています。我々は、そのためのサポートはおしみません。主体の軸足を、現場へ移していくことが課題ですね。

*この記事は2008年5月に取材したものです

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