(インタビュアー:大麦)
2 つ目の取り組みのワーク・ライフ・バランス分科会とはどのようなものですか?
伊勢谷氏 2006年度に設置されたのですが、経営企画部長、総務企画部長もメンバーとして参加しています。その他、グループの基幹会社の5社の管理部門の担当者が参加して、月に1回会議を実施しています。
大野氏 グループ各社からのボトムアップと、本部からのトップダウンの双方のコミュニケーションの流れをよくすることが分科会の目的です。たとえば、具体的に就業規則を変える必要がある案件がグループ会社からあがってきたら、それに対応して就業規則を改定したりしています。そのひとつが短期育児休業制度の導入などです。このように、現場の声を吸い上げて制度化したり、その制度を各社の従業員に周知する機能を果たしています。
具体的にはどのような取り組みをしているのですか?
伊勢谷氏 昨年度は、ニチレイグループのワーク・ライフ・バランス基本方針を決定しました。
(ニチレイグループ2007年社会環境報告書より抜粋)
「アセロラ倶楽部」の立ち上げも分科会で決定した取り組みです。今年度からは、2006年8月に設置された適正労働時間委員会と合併して、適正労働時間管理について取り組んでいます。
適正労働時間管理については、どのような取り組みをしているのですか?
伊勢谷氏 今年度は、「データに基づいた人事労務管理」と「ノー残業デーの実施」「夏季連続休暇の取得促進」等を行っています。
「データに基づいた人事労務管理」とはどのようなことですか?
伊勢谷氏 早出・残業、休日出勤の状況のほか、80時間、100時間超の所定外労働の実態について把握し、所定外労働が80時間を超えた社員については産業医等の医師との面接指導を実施して、健康状態の確認や仕事の進め方の見直し等を行っています。
「ノー残業デー」の実施にあたって、何か工夫をなさいましたか?
伊勢谷氏 環境省が実施している CO2削減/ライトダウンキャンペーン「ブラックイルミネーション2007」に参加する形で実施しました。こうした公のイベントに参加する形で実施すると、社内の理解が得やすいためです。グループ会社の中には、これを契機に独自で月に2回、ノー残業デーを実施することを決めた会社もあります。
適正労働時間管理をテーマにした背景は?
大野氏 長時間労働の常態化を是正していかないと、安全配慮義務を問われる可能性があります。また、長時間労働が脳・心臓疾患の発症と関係があるとの医学的な知見も出ていたり、うつ病の発生率を高めるという話もあり、ワーク・ライフ・バランスという視点から見て、しっかり取り組まなくてはならないと考えました。時間外労働が一定の基準(1ヶ月で80時間超)を超えた場合、これまでは産業医との面談のみを行っていましたが、今後は上長者との面談も検討し、長時間労働を野放しにせず、残業が減るように業務内容を見直したり、仕事を効率化する指導をしていくなどの取り組みを実施していこうという議論をしています。
伊勢谷氏 育児休業支援などが前年度の分科会の主要なテーマでした。それらについても引き続き拡充をしていくとともに、ワーク・ライフ・バランスの取り組みが、育児休業を取る人だけが対象ととらえられてしまわないように、全従業員に共通する課題である「労働時間の適正管理」を、新たなテーマとした点が今年度の取り組みの特徴です。
今年度の大きなテーマは他にありますか?
大野氏 「制度や仕組みの周知」です。制度や仕組みはここ何年かの取り組みで整備されてきていますが、制度を利用する当事者にならないと関心を持たれないため、上長者や男性従業員は情報を共有できていないという問題があります。そのため、今年度は、制度を広く従業員に周知し、有効に活用してもらうことを目標にしています。
従業員への周知はどのような形で実施されているのですか?
伊勢谷氏 社内掲示板への掲載や、事業会社の管理部を通じて情報を提供しています。役職者に関しては役職者向けの研修に取り込んでいます。
大野氏 その他、社内報の活用やグループ各社の掲示板にも掲載しています。また、グループ各社の管理部門の担当者が分科会のメンバーであるため、情報を持ち帰ってグループリーダー会議等で発表し、共有してもらっています。
4つ目の取り組みである「ワーク・ライフ・バランス塾」とはどのようなものですか?
伊勢谷氏 資生堂とニチレイ、日本 IBM 他の4社が幹事企業となり、ワーク・ライフ・バランスに関して志の高い企業が集まって勉強会を実施し、アウトプットを出そうという取り組みです。次世代育成法に基づいた行動計画に関して理解が深まった、関連会社等の管理がしやすくなったという成果があり、企業を横断したネットワークが持てたこと、在宅勤務など様々な取り組みに関して情報交換できたことが大きなメリットです。
具体的にはどのような活動をなさったのですか?
伊勢谷氏 3年間に期間を限定して、1年目はPDCAのPにあたる次世代育成法に基づく行動計画の策定、2年目はDoとして行動計画における課題の実践、3年目はCとしてワークライフバランス施策の成果を図る指標の開発を行いました。現在は、その評価結果を受けて施策を見直し、それを推進しているところです。
(ニチレイグループ2007年社会環境報告書より抜粋)
なぜこうした取り組みを幹事企業として運営することになったのですか?
伊勢谷氏 次世代育成法に対して、一社だけではどのように対応したらよいのかわからず、他企業と情報を共有したかったというのが一番の理由です。参加を呼びかけたところ、申込みが殺到しました。締め切り後も参加の申込みが相次ぎ、お断りしなければならないぐらいの状況でした。多数の企業が同じ悩みを抱えていたということではないでしょうか。労務に関しては情報交換の場がありましたが、ワーク・ライフ・バランスの取り組みに関しては他社と情報交換をする場がなく、各企業の課題が一致したために、参加されたのだと思います。
「キャリア開発セミナー」や「ワーク・ライフ・バランス塾」など、他社と連携した取り組みが印象的ですが?
大野氏 ワーク・ライフ・バランスに当社が取り組むこと自体が当初は目新しく、先行して取り組んでいる企業の情報を得ると、施策が進めやすいということがありました。また、厚労省や政府の動き、法制化の動きも見ていかないといけないなかで、自社単独では情報収集が難しい状況でした。関連した審議会のメンバーとなっている企業も加えて勉強会を実施できれば、タイムリーに情報が得られるというメリットがありました。当初、次世代法の流れを見ながらその対応を模索していくなかで、各社、情報を共有したいという課題があったのではないでしょうか。
共通の課題を抱えている各社が連携しあってネットワークができたということですね。「在宅勤務」について、塾に参加している他社の取り組みを参考になさったとのことですが、現在、どのような形で実施しているのですか?
伊勢谷氏 制度化するまでにはいたっていないのですが、トライアルという形で必要な従業員に関して実施しているという状況です。週に1回だけ出社する「完全在宅」はこれまでに2名、それ以外に部分的に在宅勤務を取り入れたことがある従業員が数名います。
「完全在宅」、「部分在宅」とは?
大野氏 月々の業務の計画表にあわせて、全体会議のある日は出社するなど、基本的には週1回出社するのが完全在宅です。管理部門の従業員がトライアルで実施しました。完全在宅は育児・介護などの事由で、上長者が認めた特別な場合に実施します。部分在宅は業務の状況に応じて、部分的に在宅勤務を取り入れるというものです。部分在宅の方が情報セキュリティの観点や柔軟な運用が可能なため、多くの職種へ展開していきやすいのではないかと考えています。
どのような課題がありますか?
大野氏 一番の課題は情報管理です。完全在宅を実施するには、社内のイントラにアクセスできたり、情報をやり取りできることが必要になるためです。部分在宅の場合は、情報のやり取りがなくてもできるような仕事を自宅で集中してやってもらうなど、柔軟に対応できるため、進めやすいと感じています。
どのような体制で進めているのですか?
大野氏 規程案を在宅勤務プロジェクトで作成し、それを各社の事情にあわせて修正して活用してもらっています。最終的にきちんと制度化するまでにはいたっていません。
状況にあわせて柔軟に対応していく段階、ということですね。こうした様々な取り組みを進めていくなかで、どのような成果がありましたか?
伊勢谷氏 女性の採用比率は著しく上昇しました。2000年度は17%程度であった女性の新卒採用比率が、2007年度までに、30~40%程度まであがりました。意図的に女性を多く採用しようとしたわけではないのですが、ポジティブ・アクションやワーク・ライフ・バランスの取り組みを進めるなかで、優秀な女性が多数応募してくれるようになったためです 。
従業員に目に見える変化はありましたか?
大野氏 目に見える変化がないのが現在の課題です。「ワーク・ライフ・バランス塾」で開発した指標を試験的に一つの事業会社で実施したところ、自社のワーク・ライフ・バランスの制度や取り組みについて、従業員にあまり知られてない・理解されていないという結果が出ています。そのため、まずは、従業員に自社の制度や取り組みについて知ってもらい、正確に理解してもらうことが重要と考えています。そのうえで、有効な制度は活用してもらい、活用されないものは別の有効なものに変えていきたいと考えています。
社員満足度調査を毎年実施されていますが、そこでの反応はありましたか?
大野氏 ワーク・ライフ・バランスに関する直接の調査項目はありません。また、ワーク・ライフ・バランスに関連した意見が、自由コメント欄に書き込まれるということもあまりありません。成果の指標をどこに置くのか、また成果を把握できていないということが、現在の課題です。
制度的な面ではいかがでしょうか?
大野氏 就業規則はこの3年で改定・整備しました。育児休業や看護休暇等について、法律の基準を上回る内容としています。これはワーク・ライフ・バランス分科会での議論をもとにした改定であり、成果といってもよいかもしれません。
今後はどのような展開をお考えですか?
大野氏 女性の活躍・支援を基点にスタートしたため、ワーク・ライフ・バランスは女性のためのものというイメージをもっている従業員が多いようです。多様な働き方によるワークとライフのバランス、両立支援や働き甲斐の向上という形にシフトしていけば、性別・年齢・階層を問わずに、受け入れてもらえるようになっていくのではないかと考えています。今年の4月に、ワーク・ライフ・バランスの推進担当者も入れ替わり、経営層もこの6月に大きく変わりました。新社長からも「従業員重視の職場作り」、「働き甲斐の向上」を目指し、ダイバーシティの要素も取り込みながら施策を進めるようにという方針が出ていますので、こうした方向で今後も地道に取り組んでいきたいと考えています。
女性に限らず、すべての従業員を対象として展開していることを浸透させていきたいということですね?
大野氏 そうです。たとえば、男性従業員も育休をとりやすいように、最長19日間まで有給で休みを取れる短期の育児休業制度を取り入れていますが、育児休業というと長期間休むものであり、「女性のもの」という固定観念を多くの従業員がもっています。そのため、多くの男性従業員がこの制度のことを理解していません。こうした制度を女性に限らず理解・活用してもらうことが今後の目標です。そして、両立支援から働き甲斐の向上、CSRの実現を目指していきたいと考えています。
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