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人財部社員サービスセンター課長、鬼沢裕子氏

第17回 株式会社ベネッセコーポレーション(1)

第17回は株式会社ベネッセコーポレーションをお訪ねしました。同社は2005年4月に施行された次世代育成支援対策推進法に基づき策定した行動計画の目標を達成し、 07年6月には認定事業主として「くるみん」マークを取得しています。ワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)の尊重や男性の育児休職取得推進を柱とした行動計画への取り組みを中心に、社員のWLB実現にどのように取り組んでいらっしゃるのかを、同社人財部社員サービスセンター課長の鬼沢裕子氏にお聞きしました。

(インタビュアー:大麦)

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WLBに取り組んだきっかけについてお聞かせください。

鬼沢氏  当社は女性社員が多いのですが、だからといって特別な対応をとってきたわけではなく、1970年代から男女均等処遇としてきました。95年度からは人事制度を成果主義へシフトしましたが、そのときにも、ライフサイクルの上で一時的に仕事との両立のハードルが高くなる育児や介護の時期には積極的に両立を支援していこうという考え方をしてきています。おそらく、70年代から男女構成比の上で女性社員のほうが多かったので、そのころから仕事だけではなく「仕事も生活も」という考え方が根付いていたのだろうと思います。

(ベネッセコーポレーション 男女別社員構成比の推移)

70年代からすでにWLBの考え方が根付いていたということですね。

鬼沢氏  特別な施策はなかったとはいえ、男女雇用機会均等法の施行と時を同じくして、86年度に女性社員の活用を意図した「女子再雇用制度」を導入しました。70年代から4大卒女性を積極的に採用してきて、女性に戦力としてより活躍してもらうためには出産・育児というハードルを乗り越えられる制度の整備が必要だという当時の経営および人財部の考えだったと思います。
※その後、制度の見直しを重ね、95年には新人事制度とともに制度が見直され、法定育児休業と再雇用登録をベースに切り替え、 05年には子が1歳になった3月末か1歳6カ月のいずれかまで休職できるよう制度が改定された。

具体的にはどのような制度なのですか。

鬼沢氏  最大6カ月の休職が取れるコースと一旦離職して再雇用するコース、正社員から契約社員などに雇用形態を変更して再雇用するコースの3コースからなっていました。当時は結婚している女性社員はたくさんいましたが、出産を機に退職することが多かったように記憶しています。この制度をきっかけに、出産を経てなお働き続ける女性社員が現れてきたように思います。

どのような体制でWLBに取り組んでいるのですか。

鬼沢氏  特別な部門を設けて取り組んでいるわけではなく、人財部の中で人事の一環という位置づけでWLBの施策整備に取り組んでいます。

次世代育成支援対策推進法の行動計画(第1期)では「長時間労働の是正」を最優先事項の1つに掲げられていますが、具体的にはどのように取り組まれたのですか。

鬼沢氏  まず、企業がWLB支援策としてできることとなると、時間の融通性を拡大することが究極のWLB支援策だという考えに至りました。また、過重労働の問題もありますし、WLB実践のためにはある程度の時間を割かなければならないということも経営会議で議論をし、経営側から問題提起をしてもらいました。その後、05年度の終わりから06年度にかけて長時間労働を是正するための全社的なプロジェクト活動を行いました。

どのような活動ですか。

鬼沢氏  管理職を対象とした啓発活動では、世の中の長時間労働の問題点を解説していく研修をしました。また、いくつかの大きな事業本部単位でプロジェクトを分科会のように作り、例えば編集部門では工程改革をしたり、模擬試験部門では試験の採点業務の効率化を外部のコンサルタントにも入ってもらって見直しを進めたりしました。人財部主導では、勤怠状況のデータ提供やストック方法の整備、有給休暇取得促進に努めました。当社では事業部によって仕事の山谷の時期も違うので、全社一律ではなく事業部主導で有給休暇取得の促進日を決めたりしています。

社員の方々への周知はどのようにされましたか。

鬼沢氏  当社では月に1回、朝礼を行っているので、その場でのトップからの発信、社内イントラネットを通じての繰り返しのアピールなどで行いました。社員の中には「クリエイティブの仕事なので、時間でとやかく言ってほしくない」という声もありましたが、おおむね協力的な反応であったと思います。ここ2~3年の取り組みですが、毎年時間外労働が前年度比1割減くらいの成果があがっています。

そのほかにも、行動計画(第1期)の最優先事項には「多様な働き方の実現のためのトライアルの実施」として、「在宅」「短時間」「モバイル」の3種類の勤務形態が掲げられています。具体的にはどのように取り組まれましたか。

鬼沢氏  「在宅勤務」は、日本テレワーク協会の進めているプロジェクトに参加しました。育児中の社員からは前々から問い合わせもあったので、そういう切迫した状況にある人に手を挙げてもらい、3カ月など、あらかじめ期間を区切りながら検証していく形でトライアルを実施しました。いろいろなパターンを作って、本人にとってどれだけメリットがあるか効果測定をしながら進めました。子どもの夏休みの期間中は、子どもが家にいるので午前中は出社し午後から在宅勤務にするとか、週に2日間だけを終日在宅にする、など敢えていくつかのパターンでトライしました。

1日のうち、部分的に在宅勤務という形は珍しいですね。

鬼沢氏  実は、今年度は個人単位ではなく組織単位でトライアルを始めようと考えているのですが、1日のうちの数時間だけを在宅勤務にするのは難しいと感じています。昨年度トライした際も、社内で終わらなかった分の仕事を自宅に持ち帰るという傾向が出たりして、WLBの観点からいっても仕事とプライベートがまぜこぜになってしまう要素が少なからずありました。ですので、今年度の組織としての取り組みでは、あらかじめ計画した日に終日在宅勤務をするという「週1日終日在宅勤務」を基本形と考えています。

「短時間勤務」とはどのようなものですか。

鬼沢氏  当社は93年度から「育児時短」「介護時短」という形で、1日の所定労働時間7時間を7分の5、7分の6に短縮する短時間勤務の制度を持っています。しかし、時短制度は申請して使っていても、実際に時間内に終わらずに残業が発生しているという状況が一部にありましたので、そこをあらためて徹底するということに取り組みました。業務設計がそもそも短縮した時間に合うようになっているのかの点検から始めました。それにより、特に上司側の意識が変わったように思います。

「モバイル勤務」はいかがですか。

鬼沢氏  「モバイル勤務」は主に営業職や研究職を対象としています。訪問営業の営業マンや研究機関にずっと行っていることの多い研究職に対し、会社に勤務状況を確認に来るような過程を取り払って、直行直帰のスタイルで勤務できるようにしました。社員の側は大歓迎という反応でした。

トライアル実施後の成果はいかがですか。

鬼沢氏  「モバイル勤務」は部門により定着しています。在宅勤務に関しては、組織の中の多くの人(目安として20%くらい)が実施した場合に支障がないかを確認・検証するために、今年度トライアルを実施し、09年度の本格導入を目指しています。

行動計画(第1期)の最優先事項には「WLBの企業風土としての定着」も掲げられていますが、どのような取り組みをされたのですか。

鬼沢氏  長時間労働の是正への取り組みの際にも、「何のために?」という点では「WLBが重要である」ということをしつこく言っています。それからもう1つ重視しているのが、当社は育児休職を取得したり育児をしたりしながら勤務している社員が多いことも関係していると思うのですが、WLBというとファミリーフレンドリーという図式が社員にインプットされています。そうではなくて、独身や家庭のない人であってもWLBを追求してほしいということをかなり言ってきています。管理職向けの研修でも必ずコマをもらってWLBについて研修をしています。

管理職の方々の反応はいかがですか。

鬼沢氏  正直なところ、いろいろです。若いころは仕事一辺倒でやってもいいのではないか、そのほうが力が付くという考え方もあります。管理職自らの経験をもとに、「若いうちから仕事とそれ以外の両立を図ろうというのはもったいない」という意見もありましたが、ずいぶん変わってきました。男性の育児休職への意識もこの3年くらいでだいぶ変わってきたように思います。3年前は男性が育児休職を、と言うと「奥さんは働いているの?」ということをついつい聞いてしまいがちでしたが、現在はそういう場面はほとんど見られなくなりました。

(ベネッセコーポレーション 行動計画(第1期)概要)

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