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コンプライアンス室長の森和久氏

第60回 株式会社イノス(1)

第60回は、株式会社イノスをお訪ねしました。同社は、対顧客だけでなく、社員を含む同社に関わるすべての人々と一方通行でなく、互いに尊重し信頼しあった、置き換えのきかない「イコール・パートナー」としての関係をつくりたい、とのお考えから、積極的にワークライフバランスを推進していらっしゃいます。今回は、取り組みのきっかけや制度の内容について、同社代表取締役の芹川哲朗氏にお話をお聞きしました。
インタビュー時期:2010年10月

(インタビュアー:大麦)

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どのようなきっかけで、ワークライフバランスに取り組まれることになったのですか?

芹川氏  21世紀職業財団が主催する、業種別使用者会議に参加したことがきっかけとなり、トップダウンで取組みを開始しました。
当社では顧客のリピート率が高く、顧客の固定化が進んでいることから、短期的に社員が入れ替わるのは好ましくなく、人材を定着させたいという事情がありました。

社員に働き続けてほしいということで、ワークライフバランスに取り組み始めたのですね。

芹川氏  当社は、会社の設立以来、「イコール・パートナー」「能力主義」「個人の成長なくして、会社の成長なし」の三つの理念を掲げて、性別に関係なく優秀な人材を採用してきました。その結果、社員の1/3が女性となり、現在はソフト技術者、システムエンジニアとして、ソフトウェアの開発やコンサルテーションを行い活躍しています。
※同社と関わるすべての人々と互いに尊重・信頼しあう関係を築きたいという考え方

技術者というと、育成に時間がかかりますよね。

芹川氏  そうですね。情報処理サービス業界では、一人の社員を一人前の技術者に育成するために、会社として莫大な費用を投資し、スキルは個人に蓄積されます。当社の女性社員は30歳前後で結婚・出産・育児となる傾向があり、入社7~8年後にキャリアを積んだ社員が退職してしまうことは、会社にとって大きな損失です。そのため、経営戦略・人材育成戦略上の課題から、ワークライフバランスに積極的に取り組んできました。

先程おっしゃっていた、顧客のリピート率が高いという事情も大きいですよね。

芹川氏  当社の事業は、システムを立ち上げた後もシステムトラブルへの対応、定期的なシステム内容の変更・更新があり、顧客との安定した関係を維持していくことがリピート率向上のために重要です。
知識を積み重ね、職場のリーダー格に成長し、顧客との円滑な関係を築いた女性社員が、育児・介護と仕事の両立をいかに図っていくかは、会社にとって「優秀な人材の流出防止」の観点から重要な課題となります。

取り組みを進めるにあたって、どのような体制で取り組まれたのですか?

芹川氏  社長である私と利用者と総務で話し合い、社労士に確認を取りながら進めてきました。

制度はどのように整備されたのですか?

芹川氏  先ほど申し上げた三つの理念と社員のニーズに基づき、「育児・介護休業制度」、「短時間・短日勤務制度」、「在宅勤務制度」、の三つの制度を整備してきました。

それぞれの制度について教えてください。

芹川氏  まず、1992年に「育児休業制度」を、1997年に「介護休業制度」を導入しました。育児や家族の介護をする必要がある社員を支援するための制度で、休業期間や対象社員などの規定は、法改正に伴う変更以外にも社員が利用しやすいよう適宜改定してきました。2008年には、従来の育児休業制度の中に“短期の育児休業”という区分を設けました。

「短期の育児休業」とは、どのようなものですか?

芹川氏  「短期の育児休業」は、男性も育児休業を取りやすくするために取り入れた休業区分で、取得日数が5日以内かつ期間の延長をしない場合に限り有給で育児休業を取得することができます。また、配偶者が無職の場合にも利用できるように配慮しています。

「短時間・短日勤務制度」とは、どのような制度ですか?

芹川氏  これは、育児・介護・自己啓発・健康障害を理由に短時間または短日勤務を希望する社員が上司に申請し、会社が認めた場合に利用することができる制度です。この制度も、前述の「育児休業制度」と同時に1992年に導入しました。導入当初は育児による利用のみを対象としていましたが、1997年に介護、2005年には病気・健康障害、自己啓発に対しても適用事由を拡大しました。
勤務形態は各自の事情に応じて1日の就業時間または1週間の就業日数を短くするなど、上司と相談しながら設定することができます。また、1日の就業時間と週の就業日数の両者を短くすることも可能です。制度の適用期間は、次のとおりです。

・ 育児の場合:子どもが小学3年生を終了するまで
・ 介護の場合:介護が必要な者1人につき通算して3年まで
・ 自己啓発・健康障害の場合:本人との協議で期間を決める

給与や評価はどうなりますか?

芹川氏  給与はフルタイム勤務時(7時間45分)の時間当たり賃金に労働時間をかけた金額を支給、賞与も勤務実績に応じて支給されます。
勤続年数や評価の基準は通常勤務者と同じ扱いになります。

在宅勤務制度について、教えてください。

芹川氏  この制度は、2000年に配偶者の転勤で転居しなければならない女性社員が出たことを契機に導入しました。短時間・短日勤務では対応できないケースに限って利用することができ、事情が解消されれば通常勤務に戻ってもらいます。

誰でも利用できるのですか?

芹川氏  同制度の適用については、会社が自己管理能力を有すると認めた者(勤続8~10年以上)に限定しています。公私が混同しやすい自宅で働きながら一定の成果をあげるためには本人の高い自律性と能力が不可欠だからです。
在宅勤務は自宅での作業を原則としていますが、必要に応じて当社の事業所へ出勤したり、客先への打ち合わせに行くこともあります。定期的に出勤させることによって、新しい知識、情報および技術・スキルの習得・維持を図るためです。

制度の利用状況はいかがですか?

芹川氏  「短時間・短日勤務制度」は、累計で10名に達し、2000年以降は利用者が増え、毎年7~8名の利用があります。育児を事由とし、1日5~6時間働くケースが制度利用者の大半を占めています。また、主任クラスの女性技術者も利用しています。

「在宅勤務制度」についてはいかがですか?

芹川氏  「在宅勤務制度」については2名の女性社員による実績があります。一人は、先程お話しした導入のきっかけとなったケースで、もう一人は、育児と介護の両者で出勤が困難になったケースです。

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*この記事は2010年7月に取材したものです

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