第一法規株式会社|教育研修一覧

todanabar

第55回 KDDI株式会社(1)

第55回はKDDI株式会社をお訪ねしました。同社の特徴あるCSRの取組みをはじめ、コンプライアンス、さらにダイバーシティ推進の取組みまで、幅広くお聞きしたいと思います。
今回は特にCSRについて、情報通信企業としての特色あるさまざまな取組みを、同社総務・人事本部総務部CSR・環境推進室 室長の田中和則氏にお聞きします。
インタビュー時期:2009年12月

(インタビュアー:えり)

line

御社のCSRについての基本的な考え方を教えてください。

田中氏  総合情報通信事業者である当社は、情報通信サービスの提供によってあらゆる社会生活を支えていくことが、当社CSRであるというのが基本的な考え方です。
当社は「TCS(トータル・カスタマー・サティスファクション)」という考え方をすべての事業活動の基盤としています。これは、サービスをご利用いただいているお客様にとどまらず、すべてのステークホルダー(従業員を含む)をお客様ととらえ、お客様の満足を追求していこうという考え方です。この「TCS」を実践していくことが、結果としてCSRになるという考えに基づいて、CSRを推進しています。組織としては、05年に、CSR推進室(現 CSR・環境推進室)を設置し、CSRの社内浸透を促進するため、社会貢献活動も含めた活動を広げていくとともに、08年度には四つのCSR重要課題を掲げて、より強力にCSRを推進していこうと取り組んでいるところです。

総務・人事本部総務部CSR・環境推進室 室長 田中和則氏
総務・人事本部総務部CSR・環境推進室 室長 田中和則氏

四つのCSR重要課題とは、どんなことですか?

田中氏  一つ目は、「安心・安全な情報通信社会の実現」です。携帯電話が生活の利便性を向上させているツールであることは、私どもが提供しているサービスによってうまれた光の部分だと思います。一方で、子どもたちがトラブルに巻き込まれたりする影の部分もあります。こうした影の部分に対策を講じていこうということです。
二つ目は「安定した情報通信サービスの提供」です。私どもは社会インフラである情報通信サービスを事業としているわけですが、常に高品質で安定したサービスを提供するという、本業の部分をしっかりやっていこうというものです。
三つ目は「地球環境保全への取組み」です。当社は多くの通信設備を保有しており、社会の情報通信ニーズに応えていくため、残念ながら電力消費量が増加せざるをえない状況です。したがって、環境保全への取組みも重要課題に掲げ、自社のCO2削減と情報通信サービスの提供による社会のCO2削減に努めています。
四つ目が「多様な人財の育成による活力ある企業の実現」です。これは主にダイバーシティに関するものです。これからの社会では多様性が重要であり、さまざまなワークスタイルを実現するとともに、個々の能力を活かせる環境を構築しなければ、持続的な企業成長はないと考え、重要課題として取り上げています。

「安心・安全な情報通信社会の実現」については、どんな活動をしているのですか?

田中氏  私どもKDDIの社員が直接、学校に出向き、携帯電話の正しい使い方やマナーを説明し、使い方を誤るとこんな危険があるということを子どもたちに教える「KDDIケータイ教室」という活動を実施しています。学校現場なので商品やサービスの説明は一切しないというポリシーのもとに行っています。ですから、講師がKDDIという会社から来ているということは子どもたちも分かっていると思いますが、携帯電話の「au」と結び付いているかどうかはわかりません。リテラシー教育に完全に徹して取り組んでいる活動です。また、社員自らが行くというのも特長です。

どのような社員の方が講師を務めるのでしょうか?

田中氏  「au」に関係する業務を行っている部門に所属しているから、CSRを担当しているから、ということはまったく関係ありません。講師は社員からの公募で、情報システムを担当している者もいれば、建設を担当している者もいます。実は、私も先日、講師として行ってきました。中には、自分の子どもが学校でこうした教育を受けるのでぜひ講師として行きたいという希望もあります。社員自身が子どもたちに直接メッセージを伝えることのできる有意義な活動です。
KDDIケータイ教室はこちら

実際に講師として行ったときは、どのような手応えがありましたか?

田中氏  今回は6年生が対象でした。このくらいの年齢になると、半分くらいの子どもが既に携帯電話を持っています。一方で、知らないこともたくさんあるようで、個人情報を出すことがどれだけ怖いことかを伝えると、みな、納得してくれたようでした。また、今回はPTAの主催によるものだったので、保護者の方も参加されていましたが、講座の後に行われた意見交換では、知らないことがたくさんあったというご意見をいただきました。

09年度からは対象をさらに保護者や教職員にも広げたそうですが、なぜ、対象を広げたのでしょうか?

田中氏  これは、学校と家庭と地域と私ども通信事業者が一体となって取り組まなければならない大きな課題であると考えているからです。先生方にも実態を認識していただきたいですし、ご家庭でのルール作りも非常に重要です。みなさんで情報を共有しながら、子どもたちがトラブルに巻き込まれることのないように取り組んでいくべきだと考えています。実際に教育委員会などからも、先生方の会合でぜひ講義をして欲しいという要望もいただいています。そうした声にお応えするという意味も含めて、09年度からは対象を広げたものです。

実際に社員の方が学校に行かなくても、家庭でもできる方法があるそうですね。

田中氏  ご家庭の中や、私ども社員が学校へ行かなくても、携帯電話の使い方を学んでいただけるサイト「JUNIOR net」を立ち上げ、CSR・環境推進室が主管部署として運営しています。このサイトもKDDIのサイトであることは分かりますが、サービスの紹介等は一切していません。また、最近は教材としてご利用いただけるワークシートのコンテンツも設けています。ぜひご家庭や学校の中でも活用していただき、子どもたちが安心して、安全に携帯電話を使えるような社会づくりに取り組んでいただきたいと思っています。

JUNIOR net
JUNIOR netはこちら

社会貢献活動としては、従業員参加型の「+αプロジェクト」を行っているそうですね。これはどのような活動ですか?

田中氏  これは、平たく言うと「社員の良い行いに対して会社がポイントを付ける」というものです。プライベートの時間に行うものでも構いません。最終的には、年度で貯まったポイントを会社が1ポイント100円に換算し、慈善団体等に寄付して支援するという仕組みです。その支援先も、社員から募って決めています。社員の参加は任意の登録制ですが、登録社員数はすでに3,000名を超えました。09年度のポイント換算金額も350万円ほどになっています。

従業員参加型のプロジェクトにしているのはなぜですか?

田中氏  CSRを社員に浸透させるには、研修や教育、啓発などいろいろありますが、体感してもらうのが最も分かりやすいアプローチだと思うからです。「KDDIケータイ教室」に代表されるように、自分のやったことがどこかで社会のためになっているということを体で感じ取ってもらうことが、CSRを理解してもらうための一番の近道かと思います。特に、「KDDIケータイ教室」は本業に非常に近い部分で、社会貢献を実感できる活動だと思います。

CSRに関する啓発活動は、どのように行っていますか?

田中氏  新入社員研修や人事ローテーションの研修で、CSRに関する研修会を行っています。また、eラーニングを使った啓発活動もしています。さらに、社員に会社の取組みを知ってもらうために、イントラネットでの情報提供も充実させています。また、社内報でもCSRに関する連載ページを設けています。社内のいろいろな取組みを社員に見てもらい「これもCSRなんだ」と感じ取ってもらうように努めています。
これらの活動の成果としては、たとえば「+αプロジェクト」の登録会員が増えつつあることや、「KDDIケータイ教室」の講師も08年から比べると2倍になり、かなりの人数になってきていることが挙げられます。少しずつですが関心をもってくれる人が増えつつあるのだと思います。

CSRを担当しているなかで、ご苦労されている点はどんなことですか?

田中氏  CSRは「すごく難しいこと」と捉えられてしまうことがあり、伝え方の工夫やその部分の活動がまだまだ足りていないと感じます。事業活動を継続していくためにCSRは必要なことであり、それを肩肘張らず、難しく捉えすぎることなく、「当たり前のことを普通にやっていこう、それをやらなければ会社として持続的な成長はありえない」ということをどのように伝えていくか、そこが苦労している点でもあります。

うれしく感じることはどのようなことでしょうか?

田中氏  先日、商品を担当している社員からCSRの話を聞かせて欲しいとの依頼がありました。なぜかと尋ねると、今は商品を商品力だけで売る時代ではなく、商品としても優れたものであるとともに会社としてきちんと取り組んでいることを社会の皆様にご理解いただくことが必要だと言うのです。マーケットの調査結果なのか、私どもの活動のなかで社員自身が感じ取ってくれたものなのか、一概には言えませんが、そうした感覚を社員が持ってくれたこと、またそうした感覚を持った社員が現れ始めたことは、非常にうれしいことだと思います。

社員の中にCSRの考え方が少しずつ根付いてきているということですね。

田中氏  そうですね。取説リサイクルロゴマークまた、私どもの名刺には「取説リサイクル」という表示が入っていますが、これはお客様がご不要になった携帯電話の取扱説明書をauショップで回収して、循環再生紙として当社の印刷物等に使っていく取組みです。こうした発想も社員の中から出てきています。これはCSRの中でも特に環境というカテゴリで何かできることはないかということで、発案されたものです。社員の側からこのような案が出てくることは非常にうれしく思います。

CSR活動における、今後のテーマや課題がありましたらお聞かせください。

田中氏  最も難しいのは、CSRをどれだけ深く社員に浸透させるかということだと思います。「CSR」という言葉を社会貢献と結び付けてしまう傾向がまだまだ残っている感は否めません。ですが、冒頭で申し上げたように、当社のCSRは事業活動を通じて行っていくものなので、そこをどのようにつなげ、理解してもらうかが今後の課題です。

具体的には何か考えていますか?

田中氏  研修や啓発活動でこれまでは概念ばかりを伝え、情報量を多くすることによって学んでもらおうとしてきましたが、結局は何だったのかぼんやりしてよく見えない、という結果になってしまったのではないかと反省しています。また、概念先行型だと、かえって社員が難しく構えてしまうということも往々にしてあります。今後は、たとえば4コマ漫画や簡単な一言メッセージのようなもので、当社のCSRを伝えられないかと考えています。言葉足らずになるかもしれませんが、難しい概念を伝えるのではなく、CSRを身近に感じてもらい、決して難しいものではないというメッセージを、頭に残るような簡単な言葉で定期的に発信していきたいと考えています。当社のCSRは、事業活動を行うことで私たち社員も幸せになり、お客様も幸せになり、そして社会の役にも立っているという構図であるということを伝えていきたいと思います。

― この続きは、こちら! ―
*この記事は2009年12月に取材したものです

Copyright(C)DAI-ICHI HOKI co.ltd. All Rights Reserved.
無断転載、複製はお断りします。本サイトのお問合せはこちら