(インタビュアー:よっしー)
若手職員の方たちが中心となって、行動宣言をおつくりになったとうかがいました。
林氏 「わたしたちの行動宣言」のことですね。さまざまな部署から若手職員を計16名選抜し、タスクを組んでつくりました。
新しく行動宣言をつくる場合、事務局が作成したものを従業員に伝えていく形式をとることが一般的ですよね。
林氏 私たちの場合、職員が中心となってゼロから行動宣言をつくりあげましたので、作成にはとても時間がかかりました。タスクグループの発足が2004年5月で、完成が2005年1月ですから。しかし、その間に2回ほど全職員アンケートをとって、職員参画を促したこともあり、「完成したときには職員はみんな知っている」行動宣言ができあがりました。
職員の方たちが納得した行動宣言をつくられたのですね。行動宣言の定着という意味でとても意義深いと思います。
林氏 正直、当初はどうなることかと思っていました。それでも最終的には、「わたしたちの行動宣言」完成後の座談会で、タスクグループの16名も「楽しいタスクだった」と言ってくれました。
行動宣言完成の2005年以前から、さまざまなコンプライアンスへの取り組みを実施されていました。コンプライアンスへの取り組みは、いつごろからですか?
林氏 1990年代から、生協グループのなかでは「生協の社会的ポジションに対応した責任を」という議論があり、さまざまなガイドライン等を整備していました。日本生協連では、その一環として、改めてコンプライアンスをとらえ直すべく、主要な会員生協さんとともに「生協におけるコンプライアンス経営を促進するためのプロジェクト」を立ち上げました。それが2003年4月です。
コンプライアンス推進のために、たくさんの「ツール」をご用意されたとうかがっております。
林氏 当時、コンプライアンス担当は私ひとりでした。ですから「各職場でやっていただかなければならない」状態でした。いわば内部の職員・現場の職員が、お客様であるわけです。「ほっといても職場でコンプライアンスを勉強していただく」「職場でおもしろがってやっていただく」ためにはどうしたらよいかと、ずいぶん悩み、いろいろと考えました。そして、私がコンプライアンス担当として、各職場でコンプライアンス推進ができるようなツールをたくさん用意しようと決めたのです。
これらが、ツールの一部ですね。
林氏 漫画あり、ビデオあり、穴埋め形式の問題あり、チェックシートありです。職場で負担なく、おもしろがってやってもらうためにいろいろと考えてつくりました。
ゲーム感覚で楽しみながらできる工夫が満載ですね。第一法規も、企業におけるコンプライアンス推進活動を支援させていただく商品を、数多く開発させていただいております。日本生協連様にご協力いただいて、開発をさせていただいた商品もありますが、おかげさまでたくさんのお客様からご好評をいただいております。
林氏 やはり、忙しい現場の方たちに、「やっていただかなければならない」んですよね。やっていただくためにどうするのか。そのためには、やりやすくて、おもしろくなければダメです。そのようなツールをいかに用意できるかは重要ですよね。
これらのさまざまなツールを活用しながら、最初に取り組まれたのが、管理職のためのコンプライアンス勉強会だったとうかがいました。
林氏 はい。まず管理職を対象に、コンプライアンスの勉強会を開きました。管理職に職場のリーダーになってもらうためです。勉強会で「各職場の先生になってください」と管理職の方々にお願いし、その後、ツールなども適宜活用しながら、各職場で話し合ってもらいました。そして各職場における話し合いの結果をきちんと報告してもらえるようにしました。
ほとんどの企業では、コンプライアンス担当に多くの人数はさけないのが現状です。管理職の方々に職場のリーダーになってもらうというのは、とても有効ですね。
林氏 コンプライアンスの担当者が1名なら1名なりのやり方があると思うし、少人数なら少人数なりのやり方があると思っています。コンプライアンスって、なにかすごい組織をつくらないとできないわけじゃないんですよ。そして、現場の方たちに、「やっていただく」「喜んでいただく」姿勢を貫くことがポイントです。
「組織ありきではない」というわけですね。林さんは、ながくコンプライアンス担当をつとめられ、現在は内部統制室の初代室長でいらっしゃいますね。内部統制室の正式発足は2008年6月とのことですが、実はもっとはやくに発足予定であったそうですね。
林氏 内部統制室をつくることが正式発表されたのは2007年12月です。しかし、2008年1月に冷凍ギョーザによる重大な中毒事故が起こり、大変なご迷惑とご心配とをおかけいたしました。内部統制体制確立という点からいえば、重大な中毒事故があったから必要性が出てきたというより、既にその前から準備を進めていたのですが、2008年6月に準備室から内部統制室に正式に発足いたしました。
冷凍ギョーザ問題は、大きな事件でした。第三者検証委員会による最終報告※1を拝見いたしましたが、「通常の衛生管理や品質管理の問題を越えた特殊な食中毒事件」と推測されており、「日本生協連の取り組みだけでは今回のような事例を防ぐことが困難であることは明らか」とも報告されています。
※1 「第三者検証委員会 最終報告(本文)」(PDF)
林氏 内部では、冷凍ギョーザ問題は、「事件」ではなく「事故」であると認識しています。つまり、われわれにとって、「巻き込まれた」「我々が被害者」という意味合いがある「事件」ではなく、「重大事故」であるということです。この認識は、事故発生当初から変わっていません。また、日本生協連として不十分だったと考える点を公表しています。
≪日本生協連として不十分だったと考える点≫
1) 事前に苦情情報を得ていながら、原因追求が十分ではありませんでした。
2) 事態への認識が弱く危機対応が不十分でした。
3) 高濃度の農薬が少数の商品に混入するといった事態を想定した管理体制を
とっていませんでした。
4) 従来の品質管理では、原料偽装のある商品を見抜けませんでした。
(日本生活協同組合連合会「生協への信頼を再形成するために」より)
「信頼を再形成する」という言葉を使っていらっしゃるのですね。
林氏 いま、われわれの目指す重点は「生協は信頼を回復するのではない。信頼そのものをもう一度つくりあげる」です。2007年6月に、牛肉コロッケの原料偽装問題が起こり、当時は、失った消費者の信頼を「回復する」と言っていました。冷凍ギョーザの事故以降は、「もはや『信頼の回復』のレベルではない、『信頼の再形成』だ」と、スタンスを大きく変えています。生協ブランドを支えてくださっているお取引先様とともに取り組んでいくことも大きなポイントですね。
発足したばかりの内部統制室の業務はいかがですか?
林氏 いま改めて、内部統制をどう構築するかという議論をしている最中です。コンプライアンスと同じですが、生協の社会的ポジショニングもあがりましたし、社会的責任も増しました。もともと生協は、「安全な食品」や「公正な消費者取引」といった「消費者に対するきちんとした公開・透明性」という要請が、発足の原点にあります。そういう意味では、きちんと内部統制をやっていくのはあたりまえのことです。また、改正生協法でも、コーポレートガバナンスがきっちりと明記されています。
生協自身がもっている成り立ちからの要請と、改正生協法を含めた昨今の社会からの要請というわけですね。
林氏 いま一度、事業と組織を総点検し、問題のありかを洗い出していくことが必要です。品質保証体系が中心とはなりますが、品質保証以外の面でも、きっちりとリスクコントロールをしていく必要があると思っています。たとえば、商談のあり方、お取引先様との信頼関係、われわれの電話対応など、日常業務そのものからしっかりと総点検を行っていくべきだと考えています。
― この続きは、こちら! ―
*この記事は2008年10月に取材したものです
Copyright(C)DAI-ICHI HOKI co.ltd. All Rights Reserved.
無断転載、複製はお断りします。本サイトのお問合せはこちら。