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todanabar
コンプライアンス統括室、小門口部長

第23回 株式会社損害保険ジャパン(1)

今回は株式会社損害保険ジャパンをお訪ねしました。同社は旧安田火災海上保険、旧日産火災海上保険、旧大成火災海上保険の三社が合併して2002年7月に誕生しました。女性の活躍推進に積極的に取り組むとともに、充実した仕事と生活の両立支援制度をもち、07年5月には次世代育成支援対策推進法に基づき「くるみんマーク」を取得。名実ともにワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)推進企業となりました。今回は、同社人事部女性いきいき推進グループ主任の石井朝子氏、同グループ業務リーダーの瀬尾真紀氏にお話をうかがいました。

(インタビュアー:大麦)

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お二人の所属されている『女性いきいき推進グループ』はどのようなきっかけでできたのですか。

瀬尾氏  当社は社員の6割が女性なので、女性が活躍することで会社もより活性化するとの考えが前提としてありました。また、発足当初は社会情勢としても女性が仕事と家庭を両立してキャリアを築いていくことが当たり前となり始めた時期でもありました。そこで社内にプロジェクトチームのような社員組織を作り、女性社員の声や要望を吸い上げる仕組みをつくりました。その実現を目的として専属部署として立ち上がったのが『人事部女性いきいき推進グループ』です。現在は専任が4人、兼任が2人の計6人体制です。

具体的にはどのようなお仕事をされているのですか。

石井氏  当グループの仕事は大きく分けて<1>仕事と生活の両立支援<2>キャリア充実<3>社員の意識改革(企業文化の醸成)の3つです。<1>については、制度自体はここ数年で整ってきたので、実際の運用のしやすさや認知度のアップに力を入れています。<2>は全社員の6割を占める女性社員が日々の仕事にやりがいを見い出すためにはどういうことが必要であるのか、例えばプライベートも含めた将来のビジョンを構築する機会を会社として提供するセミナーを実施するなどの企画をしています。<3>は女性だけでなく、男性も含めた社員の理解(意識改革)が必要という観点で、社員からの声の吸い上げと、意識改革の推進を目的とした社員組織『ダイバーシティコミッティ』の事務局としての機能も果たしています。

WLB に取り組み始めたのには、どのようなきっかけがあったのですか。

瀬尾氏  当社はもともと事務部門を中心に、多くの女性が活躍していたのですが、三社合併の際に「新会社では女性がより働きやすく、より活躍できるような会社としたい」というトップの強い思いがあり、プロジェクトが立ち上がりました。その際に、実際の女性社員はどのような働き方を目指しているのかという意識調査アンケートを実施したところ、<A>キャリア指向型<B>仕事充実指向型<C>家庭重視型<D>短期勤務型の4つのタイプに分けられました(表参照)。もちろんこれは固定的ではなく、会社生活の中でさまざまな刺激を受けて考え方が変わっていったり、ライフステージによって変動したりするものと当社では考えています。

表:女性社員の就業意識の多様化(2002年当初の検討)

こうした結果をどのように捉えたのですか。

石井氏  会社としては社員一人ひとりが働きやすい環境づくりが重要であり、それぞれのタイプに合わせた充実の仕方を追求することで、仕事へのやりがいや成果につなげてほしいと考えています。加えてライフステージに応じた働き方のタイプの変動にも対応できるよう支援しています。

そうした考えが、 WLB の取り組みにつながったのですね。

瀬尾氏  アンケートの結果を見ると、一番多かったのは<C>の家庭重視型でした。この方たちが働きやすい環境を整えることはもちろんですが、<A>のキャリア指向型や<B>の仕事充実指向型の社員に対する環境整備も必要と考えています。より多くの働き方の選択肢を会社が用意することで、一人ひとりの働きやすさにつながると考えており、これは女性のみならず、近年の若手男性社員も通じると思っています。

仕事と生活の両立支援の制度についてお伺いします。産前産後休暇では産前は法定よりも2週間長い8週間、しかも有給とのことですが、いつごろからこのような制度になったのですか。

瀬尾氏  02年7月の新会社発足当時からこのような制度になっています。有給であることで、この制度を利用してほしいという会社からのメッセージになるのではではないかと考えています。産休取得者は年々増えており、07年度は180人が取得しています。当社が女性活躍推進に取り組み始めたのが02年ですが、それ以降、取得者が4.5倍に増えました(図参照)。

図:仕事と家庭の両立支援制度(制度利用者数)

取得者を増やすためにどんな工夫をしているのですか。

瀬尾氏  02年当時は自分の職場や自分の所属している地区内に、仕事と育児を両立している人がいることも知らない、情報が入ってこない状態でした。社内報や社内衛星放送をはじめ、さまざまな場面で情報提供しました。「自分も産休を取ってもいいんだ」「両立していける」という実感がわき、相乗効果で取得率のアップにつながったのだと思います。

次世代育成支援対策推進法の行動計画第1期でも取り組まれたようですが、男性の育児休業取得についてはどのような取り組みをされましたか?

瀬尾氏  男性の育児休業取得者は2人です。取得の推進については、マネジメント研修で男性でも育休が取れるということを管理職に伝えています。また、男性取得者第1号である、北海道の営業現場の社員に、社内セミナーで体験談を話してもらいました。そもそも男性でも育休を取れるということを知らない人がほとんどなので、その点から広めていく大変さはあります。それから、上司が「(育休を)取っていいよ」と推奨する環境も大切だと思います。上司の世代と若い世代では価値観が違う部分もあるので、上司の理解の促進が必要だと思います。

育児中の女性の両立支援制度としては短時間勤務制度、シフト勤務制度もあるそうですね。

石井氏  短時間勤務制度とシフト勤務制度は04年度からありますが、06年度に制度改定を行い、制度を利用できる期間を子どもが小学校3年生までに延長しました。それまでは小学校入学前までだったのですが、実際にこの制度を利用している社員に聞くと、小学校に入ってからのほうがむしろ帰宅時間が早くなり、短時間勤務やシフト勤務が必要だという声があり、期間を延長しました。

まさに現場の声を吸い上げたということですね。

瀬尾氏  私自身も現在、育児短時間勤務制度を利用して16時には退社しているのですが、産・育休から復帰してすぐの時期は体力的にも大変です。

実際に利用してみた感想はいかがですか。

瀬尾氏  私の場合は特に人事部ということもあり、職場の全員が理解してくれるため利用しやすいですが、育児短時間制度は04年に新設した制度のため、制度の理解浸透など、まだまだ運用面での工夫が必要と感じています。また、今年は初の試みとして育休者の「復帰フォーラム」を本社で試行開催しました。そこで同じ仲間に出会え、情報が得られたのは心強かったです。その際に同じように育児短時間勤務制度を利用している人に会えネットワークができたので安心感もありました。

出産後も働き続けることは以前から考えていらっしゃったのですか。

瀬尾氏  出産後も働き続けることに関しては、93年の入社当時はまだまだ結婚退職が当たり前の世の中でしたし、実はそれほど積極的には考えていませんでした(笑)。実際に周囲の制度取得者の声や当社の『キャリアアップセミナー』を受け、自分自身、かなり意識改革されたように思います。

『キャリアアップセミナー』とはどのようなものですか。

瀬尾氏  入社8年目の業務主任を対象に女性のキャリアビジョンを考えるというものです。「ライフ」と「キャリア」を同じライフチャートの中で考えていき、どの時点でどこまでのキャリアを築いておきたいといったことを、これまでの経験やスキルといったキャリアの棚卸しを行いながら考えます。受講者の声としては「意識改革になった」「働き続けたほうが自分にとってプラスなのではないかということに、ライフチャートを描いてみることで気づいた」という声を非常に多くいただいています。

産・育休中の社員の代替要員の確保策として再雇用制度を活用するために、その足がかりとして『損保ジャパン・コミュニティーネット』を立ち上げたそうですね。

瀬尾氏  はい。05年の立ち上げ当時の登録者数は女性で2100人でしたが、随時、登録者数が増えています。発足当時は当社のOB会、OG会の会員に向け、サイト形式に発展させて引き続き会を運営していきたいと登録を呼びかけました。OGの経験やスキルは当社にとっても大切な財産なので、そのお願いの際に、当社でまた働いてほしいという意識付けのお願いも添えてパンフレットと登録書類一式を送りました。どのような反応がくるか、私どももドキドキしていましたが、みなさん登録してくださったのでうれしかったです。

立ち上げから3年でだいぶ定着してきたようですね。

瀬尾氏  はい。最近はOGの方から、再雇用制度を利用してまた働いてみたいけれど、実際に働いている人の声を聞いてみたいといった問い合わせが増えています。

石井氏  今年の4月に、「お知り合いにOGの方がいたらご紹介ください」との趣旨のパンフレットを全職場へ一斉配布したところ、地方での反応が思いのほかよかったです。

瀬尾氏  例えば東京勤務だった方がOG会に登録していてもその後、ご主人の転居転勤が多い方だと会社とのつながりが切れてしまうことがあります。人事部をはじめ各地の採用担当者が「ぜひあの人にお願いしたい」と思っても連絡が取れないということもあります。これまでは年に1回会報誌を送付して、住所など変更事項の確認を郵送で行っていましたが、インターネットでの双方向のネットワークを使えば、転居転勤のあった方でも気軽に画面上で登録の変更をしてもらうことができます。それによって会社とのつながりが継続できるという点はとてもよいと思います。

登録以外にはどのような活用のされ方をしているのでしょうか。

瀬尾氏  今、一番人気があるのは「なんでも相談室」という意見交換ができるフォーラムです。

石井氏  このサイトを利用できるのはOGの方以外に、育児休業中の社員です。それから一部『ダイバーシティコミッティ』をはじめとした現役社員のママなどに有志で参加してもらっています。それぞれに利用できるコンテンツは違いますが、「なんでも相談室」は三者ともに利用できるので、OGはそこで現役社員とのコミュニケーションがとれるようになっています。

このサイトは育休中の方でも見られるのでしょうか。

石井氏  育児休業中の社員は、会社から出されている通達の一部をこのサイトを通じて見ることができます。また、現役社員向けに開発した専用サイト『ライフ&キャリア plus』という両立支援に関する制度の説明や申請する際に必要な書類を実際に取り出せるサイトへのリンクが張ってあり、育児休業から復帰後の自身の働き方についてもイメージができるので、かなり利用されています。

『ライフ&キャリア plus』にはどのような反響が寄せられていますか。

石井氏  大変よい反応をいただいています。今までは制度ひとつを利用するにも、まず文章のみで書かれた規程を見に行き制度内容を理解した後に、利用のための申請書をまた別のところに取りに行き、実際の体験談は別途配布されている冊子を見る、といった具合に1つの制度に関する情報がばらばらに置かれている状態でした。それが、このサイトひとつで見ることができるようになったことや絵や、図による制度紹介などもあり、その手軽さや便利さが非常に好評です。このサイトを見てもらえばすべて自分で調べることができるので、ご本人のみならず上司の方にもアドバイスするのに便利との声もいただいています。

WLB支援制度の利用を進めるための環境整備も必要ということですね。

石井氏  そうです。『ライフ&キャリア plus』の中でよく使われているのが『休務期間シミュレーション』です。出産予定日と自分に残っている有給休暇日数を入力すると、出産時に自分がいつからいつまで休みを取れるのかということが自動計算でき、また申請に必要な書類をその場で取り出すことができて申請書の提出期限を画面で確認できるようになっています。このようなシステムがあるというだけでも制度の理解や利用の促進につながります。

仕事と生活の両立支援、キャリアの継続という観点から、06年には『キャリアトランスファー制度』を創設したそうですね。

石井氏  はい。これは、自身の結婚やご主人の転勤、ご家族の介護などで転居しなければならない社員が、転居先でも同じ会社で働き続けられる制度です。初年度(06年度)が31人、これまで累計で83人が利用しています。やむを得ない事情があって辞めなければならない社員が対象の制度なので、裏を返せば83人はこの制度がなければ辞めていたということになります。この制度のおかげで働き続けてもらうことができ、とてもよかったと思います。転居先の空きポストとの兼ね合いもあるので、必ずしも全員の希望が通るとは限りませんが、制度の目的がスキルや経験のある社員が戦力として働き続けられるようにすることなので、できる限り希望が通るように、最大限の努力をしています。

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*この記事は2008年7月に取材したものです

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